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第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」


「あんたさんが来てくれて本当に助かったよ。こんな老い耄れた婆さんには何も出来ないからなぁ。また今度、ゆっくりしに来ると良い。私は、あんたさんたちみたいに若い子と話すくらいしか楽しみが無いからな。」
そう住職は、笑い飛ばした。住職の人の好さには、頭が下がるばかりだ。
「気を付けてな。山では何が起こるか分からんからな。」
「はい。」
私たちは、住職に見送られながら寺を出て、山を下りて行った。

 トロッケン山をもう少しで下り切るという場所で、水月ちゃんの顔には疲れが見え始める。行きも合わせて四時間近く歩いている訳だから、息が乱れるのも不思議では無い。
「一旦、村に戻って昼食にしようか。」
「うん...。」
そうでもしないと、水月ちゃんは長い休息は自分から取らないし、一人で一人で頑張り過ぎちゃう事も知っていたから。
「水月ちゃんおいでっ、おんぶするよ。」
私はしゃがんで、背嚢を前に回して水月ちゃんが背中に乗れるようにして待つ。でもやっぱり、水月ちゃんは乗ろうとはしなかった。
「大丈夫だよ、私は。」
「良いのっ、私がおんぶしたいだけだから。」
水月ちゃんは、少しの間乗る事を躊躇ったが、観念したのか私の首周りに手を通して凭れた。
「ちゃんと掴まっててね。」
「う、うん。」
水月ちゃんの膝裏に手を通して、ゆっくりと立ち上がる。背嚢を前に背負い、後ろには人を背負うという、他人から見たら不思議な光景ではあるが、気にせずに歩き出す。
「...ごめんね...。」
流石に露骨過ぎたのか、水月ちゃんは気付いていた様子だった。でも、水月ちゃんの一切の迷いの無い落ち着き払った声に、少しの安心感を覚えた。
「本当だったら、水月ちゃんには家にいてもらうつもりだったんだけどね。」
いつも通り、ツェレに状況を詳しく聞いて、現場に向かって、現地の人に話を訊いて、状況を整理して対策を練り、実行に移し、事態が終息したら帰還する。関係だって、所詮上辺だけなのに。どうしてだろうか...、今回はどうも違うらしくて。
「......ありがとう...。」
その水月ちゃんの言葉は、決して状況として最善手とは言えないのに、私は特に水月ちゃんに言う事は無かった。
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