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第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」


「そんな無い無いですよ。でも、良く分かりましたね。この世界でこの地域に来たのは今回が初めての筈なのですが。」
「はっは、只の物好きですよ。偶々知っていただけです。...それで、変わった事ですか...。そう言えば、八尺様が最近活動的になっていまして。」
先ず、私の頭に八尺様とは誰なのかという疑問が生まれた。これは、この地域を全く知らない私からしたら当然の事であり、只の音でしか無い。第三史書は、前から後ろまでちゃんと読んだ事は数回あるが、それを忘れてしまったのだろう。
「八尺様は、名前の通り身長が約二メートル四十センチある怪異です。これだけ言うと何処にでもいそうなのですが、八尺様は周期的に活動を始めては、若い女性を魅入ると数日以内に取り殺されると言われています。既に何人もの女性が過去に被害に遭われていますよ。」
「周期的と言われましたけど、何の為に取り殺してるんですかね...。」
「活動する基準が分かれば私も苦労しませんよ。魅入られた人を寺に置いておくことくらいしか出来ませんし、精神が参った人は飛び出したきり、帰って来ることは無いですよ。しかし、一つだけ分かっているのはこの山に住み着いているって事だけ。だからこう、山から出ないように結界を張っているのだよ。気休め程度にしかならないがね。」
住職は、八尺様について半分以上諦めているようだった。話の通り、確かに山に入る時、道の脇に地蔵が置いてあるのを見た。きっと山を囲むようにああやって何体も置いてあるのだろう。
「私から話せる事はこれくらいしか無いが、向こうの山の因幡さんならもっと詳しい事を知っているかも知れない。そっちに行ってみると良いよ。」
この寺での収穫は、八尺様の情報だけ。八尺様を探し出すには、余りに情報が少なすぎる。向こうの寺に着くまでに被害者が出ない事を祈る事しか出来ない。
「なぁに、あんたさんなら心配要らないよ。いつも通りの自分が出せればあんたさんには大した事無いだろう?」
住職は、私の沈んだ固い表情を見て励ましてくれたのだろうか。私の肩を笑ってぽんと叩く。
「...そうですね。ありがとうございます。」
私がそう言うと、住職は再び微笑んだような気がした。
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