• テキストサイズ

第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」


「でも、ちゃんとしてるんでしょ?」
「うん、書物を読むくらいしか出来ないし、もう全部読んじゃったからもっと読んでいないものを読みたいけど。」
水月ちゃんの家にある書庫というもの、家の面積の二、三割を占めるが、読み終えてしまうのは当然と言える。城の中に入れば、一般の人も立ち入れる図書館や、場内の街には書店もあるだろうが、水月ちゃんの住む村からは距離があるから、一人では緑針さんが行かせてくれないのだろう。
「だから、フィにはもっと知らない事を教えて貰いたいな。」
「でも、歴史は覚えるだけで余り学ぼうと思わない方が良いと思うよ。私は仕事の関係で良く知ってるけど、学べる事なんて少ないよ。決して綺麗とは言えないし。」
そう私は、真剣に勉強する水月ちゃんを小馬鹿にするように言ったが、実際の所そうだから間違いの一つも無い。
「でも、覚えておく事には損は無いでしょう?」
「まぁ...確かにそうだね。」
水月ちゃんの言う事は、確かだし尤もな事だが、それが悪い教育にならないかが心配でならなかった。
「勉強より、今本当はフィと遊びたいけどね。」
そう言って、笑った。
「そう。何して遊びたいの?」
水月ちゃんは、悩み考えているのか表情が固まっている。
「別に今決める必要は無いよ。思い付いた時で良いから...ね?」
「うん。あっ、じゃあフィも決めておいてね。後で私も訊くから。」
「私は良いよ。水月ちゃんで決めたら?」
私は一歩下がるような発言をすると、水月ちゃんはむすっとした表情で私を見る。
「うん...、私も決めるね。」
「早く終わって、遊べないかなー。」
水月ちゃんは、微笑んで楽しそうに待ち望んでいるようだった。でも、この異変は待っていても終わらない事は、水月ちゃんも知っているだろうに。

 水月ちゃんと会話しながら、少し急な山道を二時間程掛けて進むと、脇道にある小さな山門を潜った先に、開けた土地にぽつんとお寺が佇んでいた。蜘蛛の巣や建物の傷みが無い所を見ると、人の手は入っているのだろう。
「水月ちゃんは、此処に来た事あるの?」
水月ちゃんは、山内に足を踏み入れると辺りを見渡している。
「何回かね。このお寺は、お婆さんが一人で管理してた筈だけど...。」
しかし、その人の姿は片足とも見えない。
/ 108ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp