第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」
「これじゃあ只、山を登りに行く格好だよね。」
「全然私は良いと思うよ。軽装で行って怪我するよりは楽だろうし。」
私も靴を履き替えて、気持一杯に背伸びをする。
「お昼はどうするの?」
「その頃には戻るようにするねっ。夜まで絶対お腹もたないもん。」
水月ちゃんの可笑しな発言に、私と緑針さんは笑ってしまう。
「夜まで食べないつもりだったの?」
水月ちゃんは、私の言っている事に気付いたのか、顔が段々と赤らむ。
「フィまで私の事揶揄って...。早く行くよっ。」
「ちょっ、無理に引っ張らないで―...。」
私の声に聞く耳を持たず、玄関から暫く引き摺られるように歩いて行った。
水月ちゃんは、竹林を出るまで私を引っ張って進んだ。無言のまま歩くから、正直怖くて話し掛ける勇気も出ない。顔を見れば、水月ちゃんは笑うしよく分からない。
「フィどうしたの?そんな強張った顔して。...あっ、フィには別に怒ってないからね。フィなら勘違いしそうだし、一応言っておいたけど。」
「......本当に怒ってないの?」
水月ちゃんは、吹き出すように小さく笑う。
「可愛いんだから、もう...。」
私には、怒っているようにしか見えなかったから、取り敢えず良かった...のだろうか。
「早く行って、早く帰ろっ。私は、フィと遊んだり沢山の事を教えて貰いたいだけだから。」
水月ちゃんは、弾んで楽しそうに話す。水月ちゃんは勉強熱心なのか、熱で外に出られない時に私の話を真剣に聞いて、勉強していた。あの時に聞かせてくれた夢を、実現させたいという気持ちが犇々と伝わってきた。
「でも、山は危険だらけだから、急いで転んだりしないでね。一応私が見てるから大丈夫だと思うけど。。」
「はーい。」
水月ちゃんは、元気な返事で答えた。軍服のように厚い生地の長袖に長ズボン、それに帽子を被り背嚢を背負っている。ここまですれば、怪我をする事は流石に無いだろうけど、緑針さんから水月ちゃんを預かっている訳だから、注意して眼を張る必要がある。それに、前回の猿夢の件もあるから、まだ安心できる訳では無い。
「それにしても、本当に水月ちゃんが勉強してるのを見て、少し笑っちゃった。感心したって意味ね。」
「ぬー...、それって私が勉強してないみたいな言い方...。」
水月ちゃんは、笑いながら怒るから、本気なのかどちらなのか分かりにくい。