第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」
恩を仇で返すという事も知らない貴女が、優しさは時に人を傷付けるという事を知ったのは何時の日の事だったろうか。世の中には知らない方が良い事が沢山ある。でも、それを知りたいという知的好奇心に駆られた。それも貴女と言えるかな。真っ直ぐな貴女は、嘘を付く事を知らず。正直者な貴女が、嘘を付く事を学んだのはあの時だろう。だから知っておいて欲しい。嘘を隠し続ける、その勇気を。何時かはばれる事を、貴女は隠し続けているという事を。
―――(アクテ-ミント)―――
あの日から、熱が引くまでに掛かった時間は二日。早いとも遅いとも言えない。普通な時間。二日間、私が大丈夫だと言って外に行こうと何回かしたが、二人に直ぐに止められた。だから二日間、ベッドの上で水月ちゃんと色々な事を話したし、勉強も教えたりして過ごした。
私と水月ちゃんは、早速トロッケン山に向かう準備を始めた。ミシアちゃんも、私たちと一緒に行く筈だったが、メグ姉に呼ばれてメレンスに戻っているので今はいない。帰る前にミシアちゃんに言われたのだが、今日か明日にリア姉が来てくれるらしい。毎日を殆ど一緒に過ごしているようなものだから、ほんの数日会えないだけで結構寂しいから、この知らせは私にとって嬉しいもの。私のお姉ちゃんに会いたいと言っていた水月ちゃんも、飛び跳ねて喜んでいたけど。
「二人とも、行く準備は出来た?」
部屋に入って来た緑針さんは、部屋の状況を見て吹き出すように笑った。
「大丈夫そうね。ふふっ、水月の方だけ散らかってるの見ると笑っちゃうわね。フィレアさんに、片付けも教えて貰ったらどう?」
「もうっ...、お姉ちゃんやめてよー...。」
水月ちゃんは、頬を膨らませて怒る。それにも緑針さんは、揶揄うように頭を撫でていた。
「片付けは私がやっておくから、早めに行って来たら?暗くなると危ないでしょう?」
「うぬぅー...。」
気に障ったのか、水月ちゃんは緑針さんの胸をぽかぽかと叩く。それも、緑針さんは笑って無効化していた。
玄関に行くと、水月ちゃんは山を登る登山用の靴を履く。登山用の靴なんて、普通の家には無いけれど、山の近くに住んでいる人らしい持ち物だ。