第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第2章 第二章「深化列車036」

「あの後から...ずっと...。きっと、今も一人で泣いてるんです。......ねぇ...、何で...何であんなに、水月ちゃんは泣いてるんですか...?あれは...、目の前で竹華ちゃんが死んだという事実に対する涙以上のものでした...。何なんですか...?竹華ちゃんは...水月ちゃんにとって、どんな存在なんですか......?」
つい感情的になった私は、涙を流してしまい何度も言葉を詰まらせてしまう。それでも、訴えかけた気持ちが届いたのか、緑針さんはゆっくりと微かに口を開いた。
「.........フィレアさんは、目の前じゃなくとも...大切な誰かを失った事がありますか?」
「......はい。」
嘘は付けないと、静かにそう答えた。緑針さんは、それに気付いていたかのように、特に大きな反応を示さない。緑針さんは、それを何時知ったのだろうか。それも、最近とは思えない。
「...竹華は、水月にとっての初めての妹です。そして水月にとっては、初めてお姉ちゃんになったのでした。水月は、私なんかより竹華と一緒にいましたし、阿吽の仲でした。第三世界統一前という、全てが不安定だった時期に、竹華は亡くなりました。その日は、酷く激しい雨が降り、肌を舐めるような不快な生暖かい風が吹く日でした。私にとって、その時は瞬き程度に感じるたった十数分程度。竹華に、川に仕掛けていた網に掛かった魚を見てくるようにと、たった一人で向かわせて......。竹華が戻ってくる事は無かったです......。雨が止んで、澄んだ空気に眩い光が雨粒を照らす頃になっても。幾ら、幾ら待っても帰って来ない。」
緑針さんは、静かに涙を流しながら語っていく。その内容というもの、何とも言えないもどかしさがあり、遣る瀬無さがある。
「やっぱり、心の傷は癒えるようには出来て無いですかね...。」
緑針さんは、苦し紛れに静かに笑う。でも、それに少し限りとも共感してしまう自分がいた。
「この事...、話してくれてありがとうございます。水月の泣きじゃくる心の声が、ずっと、静かに強く聞こえてきているんです。私は勿論ですけど、少しずつでも良いので水月に寄り添ってあげてくれませんか?」
「そのつもりでいます。水月ちゃんに、私の住む零世界に行きたいなんて、言われましたし。」
空気を和らげるように話すと、自然に緑針さんからも笑みが零れるようになった。
