第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第1章 第一章「乖離的慣性の法則」
ヴァール城に着いた私とミシアちゃんは、花や絵画で彩られた応接間で、この世界のツェレである因幡 空木(いなば うつぎ)さんを待っていた。その間、スティルルームメイドが紅茶と簡単な菓子を出してくれた。この世界の果物と茶葉は美味しい事で有名だから、内心この世界に来るのは楽しみでいた。暫くミシアちゃんとお茶を飲みながら団欒していると、落ち着きが見られない忙しそうな空木さんが少し荒々しく扉を開けて入って来た。
「すみませんっ、待ちましたか?この時期忙しくて。」
「そうですよね、特に春と年末は...。」
私は彼女に共感するように苦笑した。年末は全世界の最終報告書の精査に、春は全世界の合同会議で、考えるだけで頭が痛くなる。
「本題に入りますけど、私からは簡単にしか話さないので、詳しい話はフュールングメイドに訊いて下さい。」
ソファーに腰掛ける事無く、メイドから受け取った紅茶を軽く一口飲んで、続けて話す。
「病院からの報告で分かった事なんですが、不自然死と言いますか、心臓発作で亡くなる方が多く見られていて...。」
「その原因が、トロッケン山の寺にあるという事ですか?」
「いえ...確実にそこだという確証は無いんですが。若しかしたら、偶然かも知れませんし。」
そう言葉を濁して言った。
「そこで、念の為にフェッセルン山の麓に位置する竹林内にある村に行ってもらいたいんです。」
「分かりました。今日はその村の事もありますし、明日、その寺に調査に向かいますね。」
私は快く了承した。
「ありがとうございます。それでは私は急ぎの仕事があるので、既に外で待っているメイドさんに村まで案内してもらって下さい。」
そうとだけ言い残し、空木さんは軽く頭を下げて部屋を出て行った。私は残った紅茶を飲み干して、ミシアちゃんの方を向くと既に準備出来ているようだった。
「じゃあ、行こっか。」
「はい、お嬢様。」
この部屋には私とミシアちゃんしか残されておらず、メイドさんにお茶のお礼を言おうと思ったが、また次来た時にする事にした。次に来るまで、そう長く掛からないだろうから。