第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第2章 第二章「深化列車036」
「お願い、竹華ちゃんこっちに来て...一緒に帰ろっ。」
水月ちゃんがいたという安堵感とは別に、何故目の前にクラウンがいるのに、水月ちゃんは何も行動を起こさないのか。さらに、言動からして誰かの名前を呼んでいる事からして、水月ちゃんには他の誰かに見えているのだろう。私に気付いたクラウンは、手に持つ鉈を振りかぶる。それに水月ちゃんは何を考えているのか、自分からクラウンの方にじりじりと近付いて行く。先に始末する為か...。私は迷わず、持ち手と頭部を撃ち抜き、瞬時に水月ちゃんを回収した。水月ちゃんは、漸く見せられていた者がクラウンだと気付いたのか、我血に染まったクラウンを見て一瞬身を引いた。
「ごめんね...。」
クラウンに、水月ちゃんは何かを見せられていた。PTSDなどの可能性が無いとは言えないが、この状況では、クラウンが何らかの幻覚成分を分泌し、それを対象者が吸引した事により幻視、幻聴などの事象が起きたと視るのが普通だろう。
「過剰防衛だって訴えないでよね...。」
水月ちゃんの目の前でクラウンを殺したところを見せた事もそうだが、何より水月ちゃんにこのクラウン、幻視で見えていた竹華という子。クラウンが死んだ後も、幻覚が暫くの間見えていたという事は......。
「水月ちゃん......、掴まってくれる?」
水月ちゃんは、泣き崩れたまま返答の余地があるようには思えなかった。水月ちゃんを」優しく抱き抱えて、資料を頼りに警備室に向かう。警備室に入り、壁に掛けられた鍵の収納箱を暫く漁れば目当ての機械室の鍵はあった。その間も、水月ちゃんが泣き止む様子は無かった。どうするのが正解なのか分からなかった私は、水月ちゃんをそっとしておくことしか出来なかった。
機械室までの道を戻る最中、クラウンを一切見掛けなかったのが少し気掛かりだが、漸く機械室まで辿り着いた。先程寝かして置いたクラウンは、相変わらず無愛想な姿で横たわっている。
「はぁ...、何で夢の中で疲れてるんだろ。」
機械室の鍵を鍵穴に掛け、捻ると開錠の音が鳴った。扉を開くと、漸く終わったからか気分が楽になり、そのまま気が遠くへと薄らいでいき消えていった。