第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第2章 第二章「深化列車036」
「じゃあ、目視されない限り大丈夫って事?」
「その慢心は危険だけど、そうなんだと思う。」
懐中電灯の灯りを落とし、水月ちゃんにしっかり握らせる。心配してくれていたのか、首に腕を通してくる。しかし、心に余裕が無かった私は、水月ちゃんをそのまま放っておくだけだった。
「少し危険だけど、私の合図で懐中電灯を付けたまま外に出て、機械室を照らす。これを着ながらね。」
私の指差すものに、水月ちゃんは苦笑いしている。念の為の着ぐるみだ。
「...フィ、遊んでる...?」
「えぇ...。」
ステンレス棚から、適当な着ぐるみを引っ張り出して、ある程度状態を確認する。相当な年月が経っているから、とてもじゃないけど良い状態とは言えない。
「これを着ても、外で病気になるとかないよね...。」
私が埃を掃う姿を見て、水月ちゃんはかなり嫌そうに口で手を覆っている。叩いても叩いても埃が無くなる気配がしないから、途中で払うのを止めた。
「ここで亡くなった人が、外では心臓発作だから何とも言えないけど、何かしらの影響はありそうだよね。」
水月ちゃんは、辺りを適当に懐中電灯で照らすと、埃だらけ。見えないだけで、界隈には埃が漂っているらしい。
「どちらに踏んでも風邪くらいは覚悟した方が良いのかな...。」
水月ちゃんは、仕方無さそうに小さく溜め息を吐く。
「そしたら、数日は安静にしてないとね。」
「へへぇ...フィとずっと一緒に寝てられるーっ。」
水月ちゃんは、無理にこの状況を楽観的に捉えていた。いや、無理に...だろうか。
「もう、早くやるよっ。」
そう言って、頭の部分は後回しにして胴の部分に足を入れさせて、後ろの錆び付いたファスナーをゆっくり少しずつ上げた。
「夢だから...許してね...。」
パーカーの腕の部分の布を力に任せて引き千切る。上肢と体幹の境目に縫い目が無いからか、中々千切れなかった。
「これで多少は埃を吸わないと思うけど。」
千切った布を、きつ過ぎない様に優しく口を覆うように締めた。
「ありがとっ。」
水月ちゃんは、篭った声で微笑んで言った。
こんな状況なのに、何処か少し可愛く見えてしまって、頭を撫でてしまった。
「んゆぅ...フィーどうしたの、急に?」
水月ちゃんは、嬉しそうに静かに目を閉じて身を任せていた。
