第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第2章 第二章「深化列車036」
「えぇ。でも、ハンドガンを使う機会は少ないけど。水月ちゃんも直ぐに使える様になるよ。」
水月ちゃんから受け取ると、先ず弾倉の残弾を確認する。残り九発といったところ。少なくとも九人はやれるだろう。形状的に、フルオート、単発切り替えのもの。直ぐに弾倉をしまって、装填した。
「普段は、他の使ってるって事?」
「うん。帰れたら見てみる?」
「持ってみたいな。」
「幾らでも良いよ。」
早く帰りたいからか、先に行こうとする水月ちゃん。私は、肩を押さえ水月ちゃんを止めた。
「私が、静止するか止まる様に言ったら、直ぐに懐中電灯の灯りを落としてくれる?もう一つ、何か見つけたら些細な事でも良いから教えてくれる?」
そう言って、水月ちゃんに懐中電灯を託した。
「うん、分かった。フィの前にいた方が良い?後ろの方が良い?」
水月ちゃんの引き目の表情に、決してそれが本望では無い事が分かる。
「水月ちゃんの好きな方で良いよ。」
だから、私はこう言った。
「手繋いでも良い?」
水月ちゃんは、正直にそのまま答えてくれた。
「良いよ。でも、右手にしてくれる?」
「利き手左なの?」
「いや、両利きだよ。何となく右の方が安心するから。」
すると、水月ちゃんは少し嬉しそうに、私に身体を寄せてきた。水月ちゃんは前を照らしながら異変を感知し、私は界隈にクラウンがいないか索敵する。一糸乱れぬ、一対の阿吽の呼吸はかなり久方ぶりと言うべき他無かった。
「フィって、こういう時って性格変わるんだね。」
水月ちゃんの言葉に、少し戸惑いを覚えた。どっちの意味として捉ええば好いものか、それが分からなかったから。
「...うん、警戒網を解く訳にはいかないって思ってるからかな。だから、少し硬くなってるのかもね。」
「短い時間で色んなフィが知れて、私は好きかな。」
関係者以外立入禁止と書かれた赤い文字は、所々剥がれ掛けていて読みづらい。錆びた鉄製の扉を開き、螺旋と曲がる階段を静かに下りていく。地面に散乱する蛍光灯の破片を、なるべく踏まない様に水月ちゃんの前を先導して進む。コンクリートの間から鉄筋が目視出来るなど、壁のコンクリートの損傷具合から、老朽化が原因なのだろう。そうなのだとしたら、この場所に長居するのは少々危険と言える。下まで下り切ると、開けた空間が広がっていた。
