• テキストサイズ

第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第1章 第一章「乖離的慣性の法則」


 身体も洗い終わり、今はミシアちゃんとゆったりと露天風呂に浸かっている。竹垣を見上げると、月明かりが笹の隙間から切り差し込んできて、出湯の水面に映じる二人の顔。閑としたこの場所に流れる水の音は、自然と私たちの心に安らぎを与えた。
「楽しい所で良かったですね、お嬢様。」
「今のところは、良い意味で楽しいけどね。明日の事を思うと気が病むよ...。」
「明日の事は明日で、今日は今日です。明日の事は、明日になってから考えれば良いんです。今は取り敢えず休みましょ。」
「確かにそうなんだけど、心理学的には仕事だけじゃないけど、翌日の事に少しだけ手を付けてから終わる事で、翌日の仕事の能率が上がるっていうのがあって。」
私がそう言うと、ミシアちゃんは急に顔を近づけてくる。
「...分かったよ、今日は休むね。」
じっと私の眼を見るものだから、ミシアちゃんに従う他無かった。
「お嬢様は頑張り過ぎてしまうんですから、ちゃんと休んで下さいね。」
ミシアちゃんは、優しく包み込んでくれる様な笑顔で、私の頭をさすさすしてくる。こうされると、もう何も言い返せなかった。
「んっ?...誰?」
私は、反射的にミシアちゃんの陰に隠れて、深くお湯に浸かる。
「お嬢様大丈夫ですか?水月ちゃんみたいですよ。」
「へへぇー、片付け抜け出して来ちゃった。」
引き戸を開けて入って来たのは、他の誰でも無い水月ちゃんだった。その事実に、安心感があったのか、しかし少しの緊張の糸が解けなかった。
「体洗ったら、そっちに行っても良い...かな?」
私は、答えるのに咽喉が詰まる感じがあって、少しの時間答えるのが出来ず眼を逸らしていた。
「...うん、良いよ。急に入って来たから少しびっくりしちゃって。」
「お嬢様、本当に大丈夫ですか?」
ミシアちゃんが、不必要に私を心配する気持ちも分かる。私もあまり見られて気が良いものでは無いから。
「うん、大丈夫だよ。ミシアちゃんは少し過保護なのかもね。でも、私はそういうミシアちゃん好きだよ。」
ミシアちゃんの頭を、私は撫で返していると、水月ちゃんはまだ何か言い足りなそうにそわそわしていた。
/ 108ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp