第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第1章 第一章「乖離的慣性の法則」
「それでは、フィレアさんとミシアさんの饗宴会に乾杯っ!」
一瞬にして、風鈴の音など比にならない程の、グラスがぶつかり合う音がした。私は、隣にいたミシアちゃんと緑針さんにグラスを一緒に合わせた。一口口にすると、お酒と思って身を構えたが、気を使ってくれたのかジュースになっていて、それは杞憂に終わった。形式ばった挨拶が終わった後、直ぐに盛り上がりは元に戻り、遠くに離れていた水月ちゃんは、走って私の所まで飛んで来た。
「フィ、乾杯っ。」
水月ちゃんは、私の持っているグラスに軽く当てる。
「隣、座っても良い?」
私は頷こうかと思ったが、それほどのスペースが無かったので、返答に困った。
「お嬢様っ、お膝の上に乗せたらどうです?」
「え、でも......うん、良いよっ。」
私は、水月ちゃんが前に来れるように、少し後ろに下がると、水月ちゃんは隙間風のように座ってきた。凭れ掛かってきたが、そこまで不快に感じる重さでは無かった。むしろ、丁度良い程で。
「フィもお酒駄目なんだね。私なんて、お酒飲むと戻しちゃうから。」
そう、水月ちゃんは苦笑交じりに言う。
「私も。吐いたりはしないけど、お酒が入ると性格変わっちゃうから。」
少し離れた向こうでは、今にも風船が破裂しそうなくらいにはしゃいでいる例の娘たちがいた。その中の一人に目が合ってしまったからか、その娘は、上機嫌でやって来た。
「フィレアさんっ、一緒に遊ぼっ!」
「風花ちゃんっ、今はフィレアさんお仕事中だから遊べないよっ。」
「えぇーー。じゃあまた今度遊びに来るねっ。」
私は別に遊んでも良かったのだが、緑針さんは水月ちゃんの眼に気付いたからか、態々気を使ってくれた。
「今は私遊べないけど、ミシアちゃんに変わりに遊んで貰ったらどう?」
「えっ、お嬢様...。少しの時間だけですよっ。」
「やったーっ!」
風花ちゃんは、純粋無垢な満面の笑顔で喜び、ミシアちゃんの手を荒く引っ張った。ミシアちゃんは、あれでも嬉しそうにしてたからこれで良かったのかな?
「フィっ、口開けてー。」
村を抜けるように流れている川から獲れた魚だろうか。水月ちゃんは、箸で綺麗に切ってカドリングに回り、私の口の中に丁寧に入れてきた。
「ん、おいしいぃ。」
水月ちゃんは嬉しかったのか、胸元に飛び込んで顔をすりすりしてくる。