第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第1章 第一章「乖離的慣性の法則」
「普通は逆だと思いますよ。長は良く仕事をさぼられて、村の娘と遊んでますからね。それも、長の仕事と思えばそうなのかも知れませんけど。」
既に何度も経験している様な口ぶりで、着物の女性は溜め息を付いて呆れていた。
「ははぁ...、それは言わない約束だったでしょーっ...。」
「そんな約束した覚えありませんよっ。今日だって、遊びの誘い受けて承諾してましたよね。私は見てましたよ。」
着物の女性は、頬を尖らせて怒っている様。着物の女性の方が、よっぽど村の長な気がしてきてならなくて、吹くように笑ってしまった。つられて皆笑っていたから、緑針さんも、少しは反省の色が見えていた。最後に着物の女性が、緑針さんの肩を軽く叩き、耳打ちをする。何を緑針さんに伝えていたかは、その時には分からなかったが、嬉しそうにしている感じから何となく把握出来た。
縁側を暫くゆっくりと歩き、右に曲がった所の襖に囲まれた廊下を進んで、録針さんは立ち止まって、襖をゆっくりと開いた。
「さぁ、こちらです。既に村の者が集まっております。奥の席が来訪の方の席になっておりますので、そこまでお進み下さい。」
言われるままに部屋に入ると、計十数名の小さい娘からお年寄りまで。既にかなりの賑やかさだった。私たちが入ったのに気が付いたのか、徐々に大きくなる拍手と共に席に座った。それと同時に司会者だろうか。女性が一人立ち上がったのを機に、拍手は止まった。
「この度は、態々遠方からご来訪頂きましたフィレアさんとミシアさんに、感謝の意を表すと共に、私が代表致しまして、私ども一同は、お二方のご来訪を厚く歓迎申し上げます。また、ご臨席賜りました村の方々も、お忙しい中ありがとう御座います。それでは、乾杯のご挨拶を私の方からさせて頂きます。ご到着頂いてから、間が無い事、お許し下さい。それでは、お手元のグラスをお手に取り下さい。」
合図と共に、グラスを取る音が鳴り響く。ミシアちゃんは手慣れた手付きで、グラスを持ち上げた。私も、それに乗るように手に取る。