第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第1章 第一章「乖離的慣性の法則」
「フィレア様、ミシア様、今回はお越し頂き大変嬉しく存じます。さぁ、中にお上がり下さい。」
女性は、艶やかな着物を袖に通し、手厚い歓迎をしてくれた。その姿に、少し懐かしさを感じた。
「すみません、敬称は付けなくても良いですよ。私自身、余り好ましくないと思っているので。さんぐらいなら良いですけどね。」
そう少し厭うと、女性は軽く頭を下げ、さん付けで呼んできた。
「この村の長の方はもう中にいらっしゃるんですか?」
ミシアちゃんが、そう訊くと横に首を動かした。
「私がこの村の長ですよっ。」
右を向くと、緑針さんが楽しそうに笑っている。
「ごめんなさい、全然気が付かなかったです。」
「えぇ、村の長感ちゃんと出してましたよぉっ。」
緑針さんは、急に私の後ろに回り込んできて、無理矢理私の頭を強引に撫でてきた。それも、着物の女性の咳払いがあるまで続けられた。
家に入り、少し狭い障子の並ぶ縁側を歩いて行く。長の家とだけあってかなりの平屋建ての家で、中庭には、竹林にそぐわない桜の木が見事に咲き誇っている。家の明かりに照らされて、より奇麗に感じた。
「フィの家って広いの?」
水月ちゃんは、この手の質問にかなり関心があるみたいで、眼を輝かせて毎回訊いてくる。
「うん、お城。基準が良く分からないけど、この世界の半分くらいの大きさかなぁ...。」
それに対し分かりやすく、出来るだけ伝えるようにした。
「やっぱり物凄く広いですね。それだけ、施設が数多くあるって事なんですかね。」
「でも、娯楽施設や私用の施設もまぁまぁありますけどね...。」
すると、緑針さんの表情が急に真剣な眼差しになり、少し後ろに押されそうな圧だった。
「フィレアさんもちゃんと休んでますかっ?そういう施設が一つや二つ無いと、身体の毒が溜まる一方ですからね。」
急に豹変する所は、何処か少しアステルさんに似ている。若しかしたら、二人のイデオロギーが近いのかも知れない、という感じがした。
「メグ姉が、良く小さな悪魔を話してくれたなぁ。」
「何ですかそれ?」
緑針さんは、何処か息抜けた声で返してくる。