第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第1章 第一章「乖離的慣性の法則」
「そういえばお名前は何ておっしゃるんですか?」
「因幡 緑針(いなば ろくはり)です。この村の人たちは、全員因幡姓ですよ。」
録針さんは、私の前に手を差し出してくる。彼女の顔を確かめ握手だと分かり、軽く手を添えた。
「少しの間ですけど、宜しくお願いしますねっ。」
「はい。」
手をゆっくりと離すと、水月ちゃんは再び私の手を取る。私たちは、村の中にある水月ちゃんの家に向けて歩き出した。
「話ががらりと変わりますが、水月ちゃんはどうして私たちが来る事が分かったんですか?」
「凄い簡単に説明するとテレパシーみたいなものです。今私たちが喋って会話しているように、声による伝達という方法で独自言語が存在しています。私たちは、太古から違う伝達方法を持っていたというだけの話です。貴女たちが来る数日前に、ツェレの空木からそう言った話があったので、水月も勿論知ってましたよ。」
「そうすると、あの人もこの村の出身者何ですか?」
「えぇ、そういう事です。昔の話ですが、この村唯一の優秀な研究者でしたよ。」
「そうですか。」
緑針さんが突然立ち止まったので何事かと思ったが、ある家に指を指していた。家先には、一人の女性の影法師が確認できた。
「着きましたよ。暫くここに泊って行って下さい。」
「ありがとうございます。泊まる当てが無かったので安心です。」
「あと、一つだけ忠告しておきます。」
私は、改まった話か何かだと思ったが、緑針さんの様子が変だった。だって、少し苦笑していたから。
「この村の娘はかなり元気なので気を付けてくださいね。」
「それ、案内してくれたメイドさんも同じ事言ってましたよ。そんなに何ですか?」
「この間、休暇で戻って来た空木を、逆に疲れさせて帰らしましたから。」
「ミシアちゃんに任せてみたらどうです?ミシアちゃんは凄いですよ。」
家にさらに近づくと、扉の前の彼女たちは軽く頭を下げた。
「長くなるでしょうし、その時はお願いしますね。」
「ちょ、お嬢様勝手に話を進めないで下さいよぉ...。」
「さっきのお返しだよーっ。」
私がミシアちゃんを冷静にいなすと、ミシアちゃんは慌てる様子を見せていたが、あの笑みは、本心では少し嬉しいのだろう。