第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第1章 第一章「乖離的慣性の法則」
「今度何時になるかは分からないけど、私の二番目のお姉ちゃんのリア姉が来るかも知れないから、その時にでも会えるかもね。」
「お嬢様は、メグお嬢様とリアお嬢様、どちらの方が大好きなんですか?」
「ミシアちゃんっ、そういう話はまた今度っ。」
丁度良い時に村の篝火が眼に入った事を良い事に、ミシアちゃんの質問を強制回避する。二つの篝火に挟まれるように、一人の女性が手を大きく振って合図している。
「こっちーっ、こっちですよーっ!」
「あっ、お姉ちゃんっ!」
水月ちゃんは、お姉さんの声に反応したのか、私の手を握ったまま満面の笑みで思い切り走り出す。
「なっ、水月ちゃんっ!?」
勿論、私はミシアちゃんとも手を繋いでいた訳だから、ミシアちゃんも私に釣られて引っ張られた。私たちを気にせずに走ろうとするから、頑張って水月ちゃんに付いて行った。付いて行くので必死だったけど。
「ふふぅっ、お帰りーっ。」
「うにゅ...ただいまぁー。」
お姉さんの所に着いた水月ちゃんは、漸く手を放してくれてお姉さんに飛び付いた。お姉さんは、水月ちゃんを抱き抱えて頬をすりすりしている。二人の楽しんでいる姿を見て、少し頬が緩んだ気がした。
「あっ、すみません場も図らずに。」
「大丈夫ですよ、仲が宜しそうで何よりです。」
「ご飯はもう出来てますので、私に付いて来て下さい。」
「わーい、ご飯だーーっ。
「今日は水月が好きなビーフシチューオムライスだからねー。」
「やったー!」
彼女たちの会話は、何処か私も体験したことのあるもの。その懐かしさというか、それを回顧する感情に私は少しの間、彼女たちを見ながら浸っていた。
「フィはビーフシチューオムライス好きぃ?」
「うんっ、最近食べてないけど好きだよ。」
「じゃあ、今度私が作りましょうか?一緒に作っても良いですよ。」
「教えてくれるなら良いよ...。」
ミシアちゃんは懲りなく私を揶揄ってくる。
「ビーフシチューオムライス作るの、苦手なんですか?」
水月ちゃんのお姉さんは、私が敢えて言わなかった事を口にする。その表情には、何か自身気な顔だった。
「是非お願いします。それ以外の料理は、メイドさんに教えて貰ってたので作れるんですけど、ビーフシチューだけ作れなくなってしまって。」
「ふふっ、任せて下さいっ。」
水月ちゃんのお姉さんは、笑みを浮かべてそう言った。