第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第4章 第四章「第八深淵少女」
「手、繋いでも良い...?」
いつもはそんな事を訊かずに手を勝手に繋ぐのに、今日の水月ちゃんは何故か訊いてきた。水月ちゃんにそうさせる事を、気付かぬ内にしていたのだろうか。
「うんっ。勿論。」
そう言って、私は水月ちゃんの手を握る。そうすると水月ちゃんの複雑な表情も、いつもの朗らかな明るい表情に戻った。私としても、最後くらい笑顔で帰りたいから。
水月ちゃんの手を握って、緑針さんのいる庭先まで歩いて行く。子供たちの方に目を向けると、緑針さんはあの娘たちの中に混じって、楽しそうに遊んでいた。緑針さん...、遊んでいるのも良いが、長としての仕事は他に無いのだろうか...。
「おーいっ! お姉ちゃん、行ってくるねっ。」
水月ちゃんは、緑針さんのいるの方に大きく手を振って合図する。緑針さんはそれで気付いたのか、遊ぶ手を止めてこちらまで歩いて来た。
「今から行くの? 気を付けて行ってきてね。あ、フィレアさんの帰る準備があるから、余りゆっくりはしてこないでね。」
緑針さんは、私たちが来るまでに何をして遊んでいたのか、土で汚れた衣服を手で払っている。
「う...うんっ。早く帰って来るね。」
水月ちゃんは、突然見せた俯きの感情に布を被せる。水月ちゃんも、私が帰るのには抵抗があるらしい。きっと、今まで私に心配させないように、いつもより明るく接してくれていたのかも知れない。でも、こういう体験は今まで何度もしてきた。今回も、その人に合った別れ方をすれば良いだろう。
「えーっと...。私が帰る前に少し渡したい物があるんだけど、良いかな?」
私は、そんな水月ちゃんの頭に手を被せるように置く。その手に気付いた水月ちゃんは、首を捻って私を見上げた。今の言葉に水月ちゃんは、嬉しそうに口を少し開いて見つめている。実はリア姉がメレンスに帰る前に、私はちょっとしたお願いをしていた。決してそれを受け取って喜んで貰える保証は無いけれど、水月ちゃんなら大事に持っていてくれるだろう。
「それって、あの...どんなモノなの?」
さりげなく言った言葉に、水月ちゃんはそのような妄想を膨らませたのか、視線を外して質問してきた。逆に期待され過ぎると、渡す時に私が困ってしまう。