第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第4章 第四章「第八深淵少女」
「じゃあ、食べながらで良いから少しずつ書いていこうか。」
「うん。何となくだけど、物語は自分の中で作れたよ。」
水月ちゃんは、楽しそうに詩の事を話す。早速、ペンを取って先程書いた内容を見返して、小さく独り言を口にしていた。この三日間の水月ちゃんの事が、どうしても頭から離れないが、今は目の前の事に集中しよう。水月ちゃんの書く速度次第だが、私が余計な事を考えて遅くなるといけないから。
水月ちゃんは、本当に初めて書いたとは思えない速さで書き終える。日が傾き始めていたので、私と水月ちゃんは、足早にお寺に向かう事にした。
「ひひぃ...、竹華ちゃん喜んでくれるかな。」
水月ちゃんは、満足するのものを書く事が出来たのか、その余韻に浸る様子でにやけていた。だから、私はその出来が知りたくて覗き込んだのだが、水月ちゃんは手で隠して、悪そうに微笑む。
「だーめーだーよ。フィが見せてくれるのなら、見せても良いけど。」
水月ちゃんは、上手く物事を優位に進めようとする。
「そっか。じゃあ、私のは見せられないかな。」
そう、私は敢えて素っ気無く返して、腰を上げた。だから水月ちゃんは、頬を一杯に膨らませてそっぽを向く。
「わ、分かったっ。読んで良いから、こっち向いてくれる?」
水月ちゃんが顔を隠す時、下瞼に小さく光るものが見えた気がした。私に意地悪されていると自己解釈して、嫌われでもしたら嫌だから、私は観念して見せる事にした。
「ふふー、私の勝ちーっ。」
その声と共に水月ちゃんは伏せた顔を上げ、満面の笑みを見せて机に置いたままの紙を素早く取る。私はその一瞬の出来事に、眼を輝かせて詩に眼を通す水月ちゃんを、只呆然と眺めることしか出来なかった。
「えっ...。な、水月ちゃん...?」
「...ん、どうしたの?」
私の声掛けは他所に、水月ちゃんは読む手を止めない。
「いや、え...。...やっぱり、何でも無い。」
水月ちゃんは私の言葉に、少し間を置いて突然笑い出す。水月ちゃんの頬を見ると涙が流れていて、私は困惑せざるを得なかった。
「...読みながらで良いから、行こっか。」
考える事に疲れた私は、水月ちゃんの肩に手を置いて、扉の方に向かう。水月ちゃんはそれを聞いて、誰かに背中を押されたように立ち上がると、私の手紙、水月ちゃん本人の手紙をしっかりと持って、足早に私の所まで来る。