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第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第4章 第四章「第八深淵少女」


緑針さんの手から離れようと身体を捩るが、中々離してくれない。だから私は、もう怒って緑針さんに擽り返した。後に私はこの行動を、口にする事を憚る程後悔した。

 苺の乗ったお皿や、お茶を淹れたカップを盆に乗せて部屋に戻る。机に水月ちゃんがいなかった為に部屋を軽く見渡すと、ベッドの上に手を広げて俯せになっていた。
「お茶、持ってきたよー。」
そう声を掛けると、水月ちゃんは両手足をばたばたと動かして返事をする。いや、あれが返事と言えるのだろうか。机に盆を置いた時、ふと手紙の事を思い出す。机に置いておいた筈の手紙を確認しても、水月ちゃんが動かした形跡は無かった。あそこまで見たがっていたから、てっきり盗み読んでたと思っていたが、違っていたみたいだ。
「あっ、苺...。」
水月ちゃんはベッドから跳ね下り、踊るように机まで走って来る。まだ盆に乗ったお皿に手を伸ばして、苺を一つ盗み取って口に運んだ。
「こら...、ちゃんと座ってからね。」
口元を緩ませて美味しそうに食べる水月ちゃんを、上手く叱る事が出来ず、頭を撫で椅子を引く。私は、水月ちゃんの取った方とは逆のお皿を、水月ちゃんの目の前に取って置いた。
「この苺って、玉響さんからの貰い物?」
水月ちゃんは、盆に乗ったフォークを取って、直ぐに苺に刺した。
「ん? 玉響さんって誰なの?」
水月ちゃんは、苺を飲み込んでから話したいのか、暫く黙り込んで口を動かしている。そういうところは、しっかりしているのか...。
「風花ちゃんのお祖母さん。毎年、この時期になると少し分けてくれるの。」
「お祖母さんいたんだね。てっきりお母さんと二人だと思ってた。」
自分の苺を盆から下ろし食べようとフォークを探す。二つ乗せた筈なのだが、水月ちゃんの取った一本しか無い。
「あれ、水月ちゃん。もう一本フォーク知らない?」
「え、これしか無かったよ?」
水月ちゃんはそう言うもの、事実盆の上には置かれていなかった。私が乗せ忘れただけだろうか。
「だったら、私の使って良いよっ。」
そう言って、水月ちゃんは微笑んで差し出すフォークを、少し戸惑いながら受け取った。
「うん。出る時に緑針さんに訊けば良っか。」
そう言って、無理矢理自身を納得させた。
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