第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第4章 第四章「第八深淵少女」
「お茶...でしたっけ。湯沸し器と茶筒なら、食器棚の一番下の右側に入ってますよ。」
緑針さんは、誤魔化すように話題を変えて、苺を洗う事に集中している。その言葉の通りに、湯沸し器を探す。木製の取っ手に手を掛けて開き、眼線を右側に移す。するとそこには、陰陽がはっきりとしたチェック柄の布が、円柱状の物体に被せられていた。布の被さっていない下には、白色の湯沸し器らしきものが覗き込んでいた。
「コンセントならそこにあるから、それを使って。」
作業台に湯沸し器を一旦置いて、茶葉とカップを取りに戻る。
「最近の水月の事、私に対しては余り変わり無いように見えましたけど...。熱があったから、少し神経質になってたんじゃないですか? 私は、そんな気がします。」
終わった筈の話をする緑針さんの言葉は、自身の中で少し納得の出来るものがあった。小さい頃、熱を出した時に、人の話し声や物音に敏感になって何も考えられなくなる事があった。時折、声を上げる事も。きっと今回も、考えすぎなだけなんだろう。
「はい。今はどうかは分かりませんが、小さい頃はそういう事が多かったです。」
私は、湯沸し器の横に置かれた茶筒と、幾重も重ねて収納されたカップを上から二つ取って、緑針さんの所に戻った。
「私としては、もう少し休んでいって下さいと言いたいですけど、水月の所為で次の仕事に支障が出たら困りますからね。」
緑針さんは、いつの間にか湯沸し器に水を入れて、接続器にプラグを差し込んで沸かしていた。
「別に、水月ちゃんが悪い訳ではありません。私が考えすぎなだけですから。」
壁から吊るされた茶漉しを二つ取って、カップに掛ける。緑針さんの言う通り、これ以上お姉ちゃんたちに、迷惑を掛ける訳にはいかないから。
「この事はもう忘れます。だからさんもそうしてください。」
だから私は、緑針さんにこう切り出した。緑針さんは、頭を下げて悩んだ末、静かに頷いた。
「分かりました。フィレアさんがそうしたいのなら、私はその通りにします。」
しかし、緑針さんはこう付け足した。
「でも、若し確証の得られるものを見つけた場合は、誰でも良いですから相談するんですよっ。」
何故か緑針さんが私の後ろにと思うと、直ぐに脇腹に違和感を感じた。