第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第4章 第四章「第八深淵少女」
「水月ちゃんにお茶を淹れないといけないので、話ならキッチンでしましょう。」
「そうですか。でも、あの娘たちを見ていないといけないので。」
そう言って、彼女たちの方を見て微笑む。
「あっ、休憩なら何か甘いもの食べたいですよね。丁度、朝この娘たちを預かった時に苺を貰ったんです。今年も美味しく出来たって、食べたら凄い甘かったですっ。」
緑針さんは、飛び上がるように立ち上がって、楽しそうに足を引き摺ってキッチンに向かう。余程美味しかったのか、子供たちを無視して行ってしまった。仕様が無くPCを開いて、掌に収まる大きさのカメラを出す。それを縁側の柱に取り付けて、私は緑針さんの後を追った。キッチンに入ると、緑針さんが小さな段ボールに入った苺を、底の深い容器に少量移していた。
「今、軽く洗うので待ってて下さいね。」
口籠って話す緑針さんに、思わず口元を見ると少し頬が膨れている。それに、不覚にも笑ってしまう。
「もう、ふふっ。苺の事で子供たちの事忘れてないですか?」
私は、PCの画面を緑針さんに見せた。
「今だけですからね、こうやって見せるのは。」
すると、緑針さんは何を考えてそうしたのか、画面にそっと手を伸ばして触ろうとする。しかし、勿論触る事など出来る筈も無く、すり抜けた事実に言葉を失い、暫くの間動かなくなった。
「えっ、何で触れないんですか? これ。」
緑針さんは、触る事が出来ない画面に手を何度も通して、事実を確認する。
「すみません、それは教えられません。って、それよりあの娘たちを見て下さいよ。その為に見せてるんですから。」
そう言っても、緑針さんは首を傾げて、余り納得した感じでは無かった。
「それで、水月の事で気になる事があるとか言ってましたけど。どんな事なんです?」
緑針さんは、流し台に苺の入った容器を入れて一つ一つ手に取って洗う。私は私で、食器棚から丸皿を二枚取り出し、作業台の上に広げて置く。
「いえ...、やっぱりこの話は聞かなかった事にして下さい。私が気にし過ぎているだけだと思いますし。」
緑針さんは、何か言いたげな表情で私を見つめる。しかし、眼が合うと突然微笑んで頷いた。