第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第4章 第四章「第八深淵少女」
それから、暫く水月ちゃんが私に声を掛ける事は無く、部屋にはペンが立てる音だけが響き、頭がぼーっとして眠くなる。その状況で水月ちゃんに声を掛けられたから、私の頭も一瞬にして起動する。そんな姿を見られて赤くなる顔を、私は必死に隠すように話題を詩の事に戻す。私は、その連想した言葉を、次は仲間分けするように水月ちゃんに指示した。水月ちゃんの緩く解けた表情もきつく締まって、真剣な表情で作業に戻った。
材料を揃える作業は、そこからもう暫く続いた。さらに内容を深めたり、削除しながら漸く土台が完成する。
「疲れたー...。」
水月ちゃんも、思わずそう口に漏らした。
「うん。水月ちゃん、凄い集中して頑張ってたからね。じゃあ、休憩にしようね。」
私は椅子から立ち上がり、軽く手を伸ばしたりして身体を疲れを取り除く。
「何か持って来るけど、何か欲しいものある?」
「...お茶が飲みたいかな。」
水月ちゃんは、机に倒れ込んで息を吐きながら呟く。
「うん。序でに何か甘いものでも、お姉さんに頼んで出してもらうね。」
机に突っ伏し脱力する水月ちゃんに、私は口元が綻びる。水月ちゃんを邪魔しないように、そっと部屋の扉を閉じた。
部屋を出て直ぐ、右を向いてキッチン方面に歩いていく。私は、何処か落ち着くことが出来ずにいた。水月ちゃんに詩の書き方を教えている時も、気持ちがずっとそわそわして上手く教える事が出来ていないと感じた。今日が私の帰る日だと知っている筈なのに、今日の水月ちゃんはいつもと違い、笑顔で接してくれている事が多かった。こうやって私が部屋を抜ける時も、いつもの水月ちゃんだったら無理にでも付いて来ようとしている筈。偶然来なかっただけかも知れない。私の方が考え込み過ぎているだけだろうか。水月ちゃんは、余り気にしていないらしいから。
居間の襖に沿って左側を歩く。縁側に差し掛かると、庭にはあの子供たちが遊んでいるのが見えた。その中に、風花ちゃんの姿も確認出来た。
「フィレアさん? どうしたんですか、浮かない顔してますけど。」
緑針さんの声の方位を視界内に入れる。以前なら、また遊んでいるのかと思い、叱っていただろうが、今回はそのような事は考えもしなかった。
「少し、最近の水月ちゃんの行動に気になる点が幾つかあって、少し考えていただけです。」
緑針さんは、身体の向きを四十五度変えて、前に傾ける。