第5章 暗夜
「ヤーシュ様、どうぞ」
ある日の晩。私はグラスを執務室の机の上に置き、瓶からハチミツドリンクを注いだ。
「ご苦労」
そう言ってヤーシュ様は口をつけた。
「今日はだいぶ遅くなる。お前はもう下がってよろしい。明日はいつもどおりの時間に起こしてくれ」
書類から目を離さず、私にそう告げる。
もう月は大分高く、夜の鳥が鳴いている。
私もそろそろ1日の疲れで足が重くなってきた。早く休みたい、そういう気持ちはあるのだけれど。
それでも私は「ではおやすみなさい」とは言えなくて、その場に立ちながら目をあちらに向けたりこちらに向けたり、そわそわしている他なかった。
いつまでたっても部屋を出て行こうとしない私に気が付いたヤーシュ様は、「どうした」と、書類を見たままそういった。
「あのー、そのう」
「どうした」
「ヤーシュ様は、おひとりで大丈夫ですか」
ヤーシュ様はその言葉には答えなかった。
「私は、ヤーシュ様とともに居させて頂きたいのですが。できれば」
かなり勇気を出して発言したんだけれど、ヤーシュ様はそれでもこちらを見なかった。書類をパラパラとめくり、たまに何事か書き込んでいた。
私は天井を見たり床を見たり、指をもじもじさせながら立っていた。
「怖いのか」
ふと、ヤーシュ様が呟いた。