第3章 庭園
領主様は3日に一度、3時間だけ庭で過ごす。
前回の庭入りから3日後の今日、私は重い足取りで、菓子の乗ったお盆を運んでいた。
「ヤーシュ様、お茶でございます」
少し震えながらハチミツドリンクと焼き菓子を机に並べた。
「うむ、ご苦労」
領主様はいつも通り書類に目を向けたまま、飲み物をすすり、菓子に手を伸ばした。
ああ、神様神様。
私は祈った。
3日間、仕事の合間を縫って必死に練習した菓子作り。
別に料理ができない訳じゃないのよ?
でもしょせん田舎の家庭料理レベル。館の料理人とは月とスッポン。
下手なものを食べさせて機嫌を損ね、死刑にされたらどうしよう?
それが嫌で、料理人に土下座をして菓子作りを習った。
3日前よりは格段に上手くなったと思うけど、やっぱりプロには敵わない。
けれどそれでも、ああどうか、どうか彼の舌にあいますように!
「ふむ…」
ザリザリと彼は焼き菓子を咀嚼する。
私はゴクリとつばを飲んだ。
「これはお前が作ったのだろうな?ペシェ」
「は、はい…もちろんでございます。しかし、あの…とてもヤーシュ様の料理人殿には及ばず…」
「まあ味にとやかく言う気はない。ボクが菓子を食べるのは仕事の能率を上げるためだ。甘いものを食べると頭がスッキリと働くようになるからな。味を楽しみたいわけではない」
結局美味しかったのか?美味しくなかったのか?
「はあ…そうですか」
「しかしどうせなら好きな女の作ったものを食べたかったのだ」
「はあ…そうで」
ん?
「これから、庭でのティータイムの菓子は全てお前が作れ」
「え、あ…あ、はい」
私はうろたえた。
好き。
好き…?
領主様は私が、好き…。
まあ、嫌いな女を専属使用人にはしないか。
ふいに、領主様は私の腰に手を伸ばしてきた。
「あ」
なんだろう、と思う間もなく抱き寄せられる。そのまま私の胸に顔をうずめ、脚をさすり、スカートの中へと進んできた。