第2章 1day
「どうするんすか?キャプテン。」
「…別に海に捨てても構いやしねェが…退屈だったしな。起きるまで待つ。」
ニヒルな笑みを浮かべる彼に3人は思わず苦笑した。また良からぬことでも考えていそうなこの表情はもう幾度となく見てきた顔だ。
それから、船へと落ちてきた彼女の話しが船全体へと伝わるのに時間は掛からなかった。あっという間に、彼女ひとりが大勢の男に取り囲まれる。傍から見たら異様な光景だ。
「すげー可愛いじゃねーか…。」
「人形みたいだな…。」
やんや、やんやと騒がしくなる船、彼女の眉がぴくりと動いた。そして真っ白な睫毛をゆっくり持ち上げる。視界に映ったのは、まず青々とした空。かと思えば、多数の顔が己を覗き込んだ。
「っ~~……!!」
彼女の心臓は飛び出しそうな程に跳ね上がった。顔を青ざめさせ同時に、上半身を持ち上げ辺りを見渡す。…囲まれている。はくはくと唇を開閉させるが、動揺の余り声にならない。トラファルガーの手が彼女の頭へ伸びる。びくりと肩が大きく上がり、瞳に涙を滲ませる彼女の綺麗な琥珀色の髪をそっと撫でた。
「ひっ……!」
「おい、落ち着け。」
「………こっ……殺さないで…。」
か細く消えそうな位小さな声だった。その声は驚く程透き通っていて、鈴を転がしたかのように美しい。しかしその目は完全に恐怖に怯えているのは、誰が見てもわかる。警戒心を露にするその姿はまるで小動物のようだ。
「…殺す気はねェよ。お前は何者だ。」
「あ…あの…。」
トラファルガーは出来る限り、優しく問いかけたつもりだったが彼女は怯えたまま眉を下げ、今にも泣きそうな顔を浮かべるばかりだった。周りからは好奇の目が多数寄せられ更に縮こまる。トラファルガーは大きなため息を吐き出すと、戦う力など到底無さそうな彼女を警戒する事をやめ全身かすり傷だらけの彼女の前に立ち、華奢な身体を横抱きにした。
「きゃっ…!」
「お前が何者か知るより先に治療してやる。暴れるな。お前達はさっさと持ち場に戻れ。」
アイアイキャプテン!
そこかしこから聞こえる声。彼女は目を見開き動けず、理解の追いつかない頭のまま彼に抱かれ身体を固めた。ゆっくりと甲板から自室へと足を踏み出したトラファルガー。目的の場所へ着けば、彼女を抱えたまま器用に扉を開き中へと入る。