第2章 落翠
「甘い匂いがする」
乱歩さんは店内の隅にある椅子に座ると、鼻先を上げすうっと息を吸い込んだ
と同時にこちらに期待を込めたような眼差しを向けてくる
「あ、わかります?今日は」
「マフィン!しかもチョコチップ入り!」
私が言うより先に自信満々に言い放たれる正答
的確に即答されたことに驚きすぎて、私の口はマフィンのマの形で暫く固まってしまった
「え…と、どうしてわかったんですか?」
「僕が名探偵だから!」
ふふん、と得意げに口角が上がる乱歩さん
大人なのに時々子供みたいな発言をして、いつも驚かされたり、笑わせられたり
こんなやり取りはすごく新鮮で
なんだかこの時間、好きだな
自然に笑顔になるから
「じゃあ名探偵さんに正解のご褒美持ってきますね。
あ、今日は自信作なんで期待しててください!」
「子供扱いされた」と言いながら、ちょっと不満げな顔をした乱歩さんをまあまあと宥(なだ)める
「それじゃあキッチンで準備してくるので、店番お願いしますね」
それまでの繋ぎにと、レジ台の下から乱歩さん専用の駄菓子箱(と言ってもお菓子の空き箱にキープされた駄菓子を詰め込んだだけ)を取り出し、彼の前のテーブルへと差し出す
「お茶も淹れてきますね」
「うん、よほひふ」
すでに口いっぱいにもごもごしている乱歩さんが嬉しそうに答える
ついさっきまでむすっとしてたのが嘘みたい
なんだろうね、この世話焼きたくなっちゃう感じは
近所の子供の面倒みているような…?は流石に失礼かな
ついふふっと声が漏れると、乱歩さんは不思議そうに首を傾げていた