第2章 落翠
店内奥にある扉からは、すぐ自宅の台所に繋がっている
前もって準備していたティーポットに電気ポットからお湯を注ぐと茶漉しの中で茶葉がふわっと広がるのが見える
紅茶の香りが鼻に抜けると同時に懐かしい思い出が脳裏を掠めた
「おばあちゃんも好きだったな」
生前おばあちゃんも大好きだったこの紅茶
練習がてら作っていたお菓子と一緒によく出していたっけ
この香りを嗅ぐと、私のことを思い出すって言ってくれた
パティシエとして頑張っていることを応援してくれていたし、離れて暮らしていたから体や金銭面の心配もしてくれていた
今では私がおばあちゃんを思い出す
すごく思い出深い紅茶
乱歩さんは好きになってくれるかな…?
ティーポットの蓋を閉めようと、手を伸ばした時にふとある事に気付く
「あ、これ…」
左手の爪の先に焦茶色の跡が付いていて、それは溶けたチョコチップだった
洗い流したと思っていたのにまだ残ってたんだ
これを見てチョコ入りだってわかったってことか
なるほど!
…でもあの短い時間で?
間近で話していた訳でもないし、手を見せるような素振りをした覚えもない
しかもこれだけじゃマフィンだってわからないし
いつだか焼菓子が得意とは言ったけど…
「名探偵、ねぇ」
うーん、と唸りながらマフィンと暫く睨めっこをしていた