第7章 1step,2hands,3seconds
「ら、乱歩さんっ…!」
「何してんの?」
視線がゆっくりと下がり、私の両手に下げた袋に行き着くと、なるほどと言わんばかりの顔付きで私の手元を見つめている
きっと乱歩さんは、どういう経緯でこの大量の食材を手にしているのかわかったんだろう
と、普段なら考えてた
でも今の私の頭の中は、この場で会えたことに動揺しまくっていて、鼓動が速くなっていくばかり
だって…
乱歩さんは昨日お店に来なかった
出会った日から毎日欠かさず立ち寄ってくれていたから、なんだかこうモヤッとした気持ち…私何かしたかなとか余計なこと考えてしまったり
だから、普通にこうして話し掛けてくれることにすごく安心しただけ!
そう!それだけ!!
と、誰に何を言い訳してるのかとツッコむもう一人の自分もいたりして
頭と心臓が忙しいせいで返答がない私を、乱歩さんは訝しげに眉間に皺を寄せ始めた
「もしもしー?百菓?寝てる?」
「っあ、いえ、起きてます!」
慌てて返事をした後、今度は里田のおばさんがふふふっと息を漏らす
振り返ると、私たちを交互に見遣り、にっこりと笑顔を浮かべた
「なんだ百菓ちゃん、知り合いかい。
見かけない顔だからびっくりしちゃったよ」
「あ…そうです、乱歩さんはうちのお店に来てくれているんです」
そしておばさんは更に口角を上げるととんでもないことを口に出す
「いやぁね、心配してたけど…ちゃんと良い人いるんじゃないの」
良 い 人 ? !
それはつまり……
「あ、いや…良い人と言うか」
慌てて否定しようとした瞬間、乱歩さんが背後からスッと耳元に顔を寄せ、囁くように、でも確実におばさんにも聞こえる声量で呟いた
「ねぇ、今日は百菓の何を食べさせてくれるの?」
「「!?!?!?!?」」
びっくりして思考(と多分心臓)が停止したその先に、見開いたおばさんの瞳とかち合って
きっと私も同じような表情の中、じんわりと回路が動きだす
…?
何を…って勿論お菓子のことだよね…?
!?!?
その言い方ってなんか…
ここで乱歩さんの口元が愉快げに上がっているのが見えて、揶揄われたんだと漸く気付くも、里田のおばさんはにこにこ…いや、にやにやと楽しそうに笑っていた…