第7章 1step,2hands,3seconds
――翌日
目の前の光景に瞬きをひとつ
これもこれも、と野菜や果物、卵がそれぞれ袋一杯に詰め込まれていく
満足した様子で差し出されたそれらに、私はもう一度ぱちくりと瞬いでいた
「これは今朝採ってきたばかりだから新鮮な物だよ。
あぁ、後こっちは今年上手く成ってたからすごく甘みがあって美味しいよ」
「い、いつもすみません!
車をお借りする上に、こんなに食材いただいて!」
「いいのいいの、気にしないで!
その分こっちの買い物も頼んでるからさ」
あっはっは、と豪快に笑うおばさんを前にもう一度すみません、と頭を下げる
ウチのご近所(と言っても100メートル程離れたお家)に住む里田さんは、おばあちゃんと仲が良かったそうで、ここへ移り住んだ頃から何かと気に掛けてもらっている
勝手がわからなかった地域の行事や決まり事を親切に教えてくれたし、今日のように市街へ買い物に行く際はいつも車を貸してくれる
そしてその時に自宅で育てた野菜や果物、朝取れの新鮮な卵を毎回大量に頂くのが恒例だ
毎度その量の多さにびっくりしてしまうけども
正直…これは本当に助かっていて
日々の食事は勿論のこと、お菓子作りにも頂いた食材を使わせてもらっているから、里田さんには本当に感謝してもしきれない
「あの、良かったら!これ作ったんで!
そんなに甘くしてないのでおじさんも食べられると思います」
「あらぁ、いつもありがとうね。
プロが作るお菓子なんて早々食べられないから、いつも楽しみにしてんのよ」
お礼にと昨日焼いたカップケーキを渡すと、早速中身を確認し嬉しそうに顔が綻ぶ
こんな笑顔を見るとパティシエ冥利に尽きると言うか…私も幸せな気持ちになれる
でも、プロだなんて…なんか…申し訳ない……
と、それまでにこにことしていた里田さんが不思議そうな表情をして目を開き、私の背後をじっと見つめ出した
「…?どうかしまし――」
「それ僕も食べられるんだよね?」
突如聞こえた声に振り向くとそこには楽しげに口角を上げ、弓形に細めた目をハンチング帽から覗かせたあの彼が立っていた