第6章 漆黒の中の懐古と猜疑
微かに潤くんの肩が揺れ、表情がみるみる内に固くなると、大きな瞳が更に大きく見開く
考えるより先に口を衝いて出た言葉に自分でも驚きつつも、何より聞き流してはいけない気がして
じっと反応を探っていると、表情を険しく変え戸惑いがちにポツリと声を漏らした
「あぁ…参ったな…、言うつもりはなかったんだけど…」
そうして手の甲を目元に充て瞼を閉じ、私に向けてもう片方の手の平を挙げて見せる
降参を示す態度は認めたということ、だよね…?
「乱歩さんのこと知っているのね」
「そうだね…知っているよ、彼のことは。
と言っても昨日知ったばかりなんだけど」
「…どういうこと?」
昨日?
うちで会った時は乱歩さんのこと知らない風だったけど…?
浮かび上がる疑問を察したのか目前から乾いた笑いが漏れ、躊躇しながらもマスク越しの口元が動いた
「実は…彼は父が雇ったそうなんだ」
「?!
潤くんのお父さんが…?」
「そう、昨日ここで彼と会った後に家に戻ったんだけど、そこで聞かされてね」
ふぅと溜息を吐き天井を仰ぐ仕草にどことなく寂しさが混ざっていて、同時に強い決意のようなものも感じられて
暫くすると腹を括ったのか真っ直ぐ私を見据え言葉を続けた
「…父がうちの会社の社長だと言うのは知っていると思うんだけど…実は病気で余り先が長くなくてね。
百菓ちゃんも知っての通り、僕にはそれぞれ母親の違う兄が二人いて、相続に関して少し揉めているんだ」
あぁ…そうだった
潤くんにはお兄さんが二人
父親は皆同じだけど、母親が違っていて
確か潤くんのお母さんとは随分前に離婚をして、今は四人目の奥様がいるとかいないとか…
そして兄弟仲はあまり良くなくて、小さい頃から離れて暮らしていたけれど、今は皆同じ雨宮建設で働いている
と言うことは聞いたことがある
以前知り得たことを思い出していると、潤くんはまた苦笑いを一つ零す
「なんだか内輪の恥を晒すようで百菓ちゃんには知られたくなかったんだけど。
…父は、誰が自分の後継者として相応しいか調査するそうなんだ」