第6章 漆黒の中の懐古と猜疑
「なんてね」
「へ…っ?!」
冗談だよ、と一転して軽い口調で言いのけられ、思わず漏れた気の抜けた声が宙を舞う
動揺が見て取れる私を薄く細めた黒眼に映すと、マスクがくしゃりと動いた
覆い隠されたその下は…笑ってる…?
「いや、古い家の開かずの部屋なんて、どこかのミステリー小説みたいだななんて思ってさ」
そう楽しげに言うと目元が弓形に変わっていく
唖然としつつもその様子を覗えば、よく見知った幼馴染の姿で
冗談?
ほんとに…??
「っ…びっくり…した…!
驚かせないで…」
「ごめんごめん、百菓ちゃんは人が良いからこうでも言わないと危機感持たないんじゃないかなって」
そう言って近付き伸ばされた手は強引に私のものと繋がれ、ぎゅっと力が込められると少し痛みが走った
やっぱり…怒ってる…
「百菓ちゃんが本当に心配なんだ…
ちょっと会わない間に僕の知らない人が入り込んでたし」
「………」
何か違和感のある言い方だけど…
でも潤くんの冷たい手が私の体温と混ざり合い、こうして触れられると緊張する反面、どこかほっとしてしまう
誰かに構われてる安心感
頼れる人が少ないこんな状況の中、一人じゃないって思わせてくれる
「誰にも触れさせないから…」
「え…?」
ポツリと漏らした声は、マスクの中でくぐもって私の耳までは届かなくて
聞き返そうと口を開こうとする前に次の言葉によって遮られてしまった
「それにしても…正直言うと昨日は本当に驚いたよ」
あの傍若無人な彼、と付け加え苦笑いを溢す
また不機嫌になられるのは嫌だから慎重に…
「そ、そうだよね、吃驚したよね。
でも乱歩さんはいつもあんな調子だから…」
「初めて出会ったタイプの人だよ。
全く…あんなふざけたような振る舞いをする男が探偵だなんて」
「潤くん…?」
ハッとして思わず名を呼ぶと、不思議そうにこちらを見つめる瞳と絡まってごくりと息を呑む
だって
だって…
「どうして乱歩さんが探偵だと知っているの…?」