第6章 漆黒の中の懐古と猜疑
この視線の冷たさは昨日感じたそれで
背筋に嫌な汗が伝い緊張が走る
やっぱり乱歩さんのこと怒っているんだ…
名前を出しただけで、こんなに不快感を露わにするなんて余程のことだったんだろう
なるべく逆撫でしないよう慎重に言葉を選ばないと
「関係って…乱歩さんは、お店のお客さんで…」
「嘘」
私がそう返すのをわかっていたのか強めの語気で遮られてしまって
更に漏らした深い溜息は繋げようとした言葉の先を完全に断ち切ってしまった
「とてもそんな風には見えなかったけど。
何か僕に隠しているんじゃない…?」
嘘じゃない
でもなんて説明したら納得してくれる?
お客さんなのは間違いないし…
開かずの間の開扉を頼んだと伝えるべき?
勿論、乱歩さんが一度開けたなんて言えない
でもきっと潤くんのことだ、開かなかったと言っても嘘がバレてしまいそう
…兎に角、扉のこと以外の真実を伝えれば…!
「う、嘘じゃないよ、乱歩さんはお仕事でこの集落へ来ていて、駄菓子が好きだからたまたまウチに寄ったんだよ」
「そう…?
でも百菓ちゃんに対する態度が普通じゃなかった」
眉間に皺を寄せると更に追い込むような視線を飛ばす
心の奥底を暴き出そうとする獰猛な眼
矛先が明らかに私へと向けられている
「…もしかして騙されているんじゃない?」
「え…?」
騙す?
乱歩さんが?私を?
確かに掴みどころはないし、考えてることなんてわからないけれど
けれど…
絶対に、違う…!
「…何のために…?」
「…例えばおばあさんが亡くなったことを知っていて、何も知らない客を装い百菓ちゃんに近付いたとか」
「そんな…うちには狙われる程の遺産なんて」
「お金とは限らないよ。
この家に遺したもの…“開かずの部屋の秘密”とか」
―――っ!!!
心臓がドクリと大きく揺れる
――潤くんは知っている…?
言葉の真意を確かめたくても私を見据える鋭い瞳はそれさえも許してくれなくて
激しく打ち鳴らす胸の拍動は痛みとなって短く呼吸を繰り返すしかなかった