第6章 漆黒の中の懐古と猜疑
封をしていない封筒を開け取り出すと、確かに雇用契約書と書かれた書類が数枚
以前説明を受けていた内容が細かに記されてあった
「…ありがとう、わざわざ持って来てくれて。
それに…仕事の斡旋までしてくれて」
顔を上げると何てことはないと言う風な笑顔が返ってくる
潤くんはこの土地の売却の後の私の生活まで心配してくれて
本社ビルに併設されているカフェで従業員として雇ってくれるそうだ
暫くは接客要員として働くからすぐにはパティシエとしては働けないけれど、そのカフェで出されているスイーツの製造にも後々関われるとの話になっている
「そこのパティシエが一人退職することになって空きが出たから、丁度良かったよ。
店長に話したら経験者は助かるととても喜んでいたよ」
「私がお役に立てるなら…!
ほんとにありがとう!」
「ごめんね、まだ家の契約も途中でバタバタしているのに次々書類を持って来てしまって」
「ううん、寧ろ時間がかかってごめんなさい…」
土地の権利書…
本来なら昨日の時点で渡さないといけなかった
潤くんが出張から帰ってくるまでに準備できると
あの開かずの間に入れると思っていたのに
昨日の乱歩さんの様子を思い出すと胸が波打ち落ち着かない
それに一瞬垣間見えた暗闇に包まれた部屋を思い出すと、すごく…気分が悪くなる
「明け渡しまでにはまだ少し時間があるから、焦らなくていいよ。
…それと、」
間を置いた後、躊躇いがちに視線を彷徨わせ言葉をゆっくりと続けた
「昨日の、江戸川乱歩という男…
本当はどういう関係なの?」
その名を口にした瞬間、それまで柔らかい光を放っていた漆黒の瞳が鋭く私を刺した