第6章 漆黒の中の懐古と猜疑
「百菓ちゃんも変わってないよ」
潤くんが柔らかく目元を細めると、今度は少年時代とは違う雰囲気が漂う
色を増して揺らめく瞳にドキリと心臓が跳ねて、その大人びた視線に充てられた頬が熱を帯びたのがわかった
「あの頃と変わらず、ずっと可愛いままだよ」
迷いなく私の髪に触れてくると一層優しく微笑まれる
正直心臓に悪い
子供の頃から整った顔立ちだと思っていて、しかもかっこよく成長した幼馴染は距離が近い
こんなのドキドキするに決まってる
それになんだか乱歩さんに悪いことをしている気分
……?
乱歩さん??
思わず浮かんだ人物に動揺して、咄嗟に体が後ろへ下がり触れられた髪がぱさりと落ちる
視界には目を見開いて私を見つめる潤くんが見えて、思わず目を逸らしてしまった
あれ、私…今なんで…
「あっ、ごめんなさ――」
「百菓ちゃん今…」
何かを言い淀んで直ぐに口を噤んでしまった幼馴染を見上げると、今度は目を逸らされてしまって
伏し目がちの黒い瞳が悲しげな色を差した
「潤君…?」
おずおずと声を掛けてみると、躊躇いがちな視線が絡む
憂いた瞳に胸の奥が妙な違和感と共に締め付けられ、ざわついてくる
拒否したわけじゃない
いや、違うけど、違わないけど…!
あーもうこんな時は!
「じゅ、潤くんは!かっこよくなったよね!
それに…すごく頼り甲斐がある!」
「…そうかな?
百菓ちゃんには、もっと頼ってほしいんだけどな…」
雰囲気が悪くなった気不味さに焦って、何とか話題を無理矢理逸してみたけども、寂しげに眉を下げたまま
これは完全に失敗した…
フォロー下手過ぎる私!
請(こ)うように潤くんを見つめると傷付いた表情がまるで…
先程の違和感の正体は二度目の既視感
私達が友達ではなくなってしまったあの時と同じだった