第5章 対極者
咄嗟に出た言葉だったけれど我ながら上手い言い訳だったと思う
そう思いながらも無言のまま頭を垂れてしまった彼を少し後ろめたい気持ちで見つめる
口元はマスクで隠れているし、唯一感情を判別できる目元は前髪が顔に掛かっていて確認できない
でも…流石にちょっと落ち込み過ぎでは…?
「…あの、潤くん?
別に気にしてないよ…?」
「あーーー!」
突然声が出たかと思うと、ガシガシと髪を荒く掻き、勢い良く頭が持ち上がる
そこには眉を下げ、今にも泣きそうな“幼馴染”がいた
「本当にごめん、無神経だった……でも!」
悲しく揺れる漆黒の瞳が真っ直ぐに私を映し出す
その中に光る何か強いものが感じ取れて、胸の奥を掴まれた感覚に思わず息を呑んだ
「百菓ちゃんの力になりたい気持ちだけは信じて」
「――っ」
きゅうと心臓が切なく鳴いて
時々こうして見せる誠実さに心が動かされる
子供の頃は頼りない印象だった幼馴染の成長に鼓動が早くなっていった
「あ、りがと…」
胸の高鳴りが思考を邪魔して、そう答えるのが精一杯
つい視線を左右に泳がせると目の前からふっと息が漏れる音がした
「わかってくれたのなら嬉しいよ」
ふわりと髪に優しい感触
耳の上辺りを上下するくすぐったい様な動きは撫でられてるんだってわかるのに数秒
それだけでも恥ずかしいのに大きな手が男の人のものだって変に意識して、頬に熱が差したのが自分でもわかった
なんだか顔見られない…
乱歩さんがいるのにどうしたら…
そっと視線を上げると、潤くんは目を細めてふわりと優しく微笑んだ
「…そろそろ行かないと。
バタバタしてごめんね」
「うん…」
奇麗に形作られた瞳が弓なりに変わり、手が引かれる
腕時計を確認しながら素早く立ち上がると、ここでいいから、と玄関へ歩を進め始めた
玄関へ向かうには乱歩さんの背後を通らないといけない
通り際その背中を一目するのが見え、びくりと心臓が跳ね上がる
真逆…何か言うつもりじゃ…
目を細めじっと姿を伺う様子に気持ちが焦ってくる
しかしお菓子を頬張る謎の人物に呆れたような短い溜息を漏らしただけだった
良かった、余計な心配だったかな
そう思っていたのに
「随分と回りくどいことするんだねー」