第5章 対極者
ピクリと潤くんの肩が揺れると、鋭い視線が乱歩さんへと注がれる
その冷たさが少し離れた私にまで感じ取れて、つい体が強張ってしまう
当の本人は背中越しだからか、それに気付いていない呑気な様子でお茶を啜っていた
「たまには煎茶も悪くないね」
この雰囲気に似つかわしくない声色が部屋に響くと、潤くんの目元がまた険しくなった気がした
「…本当に、失礼な方だ。
仕事柄、あなたの様な人は沢山出会って来た。
まぁその様な輩は二度と会うことはないのだけど」
口調は努めて穏やかに、でも静かな怒りが伝わってピリリと空気が緊張した
「潤くん…あの…」
また先程みたいに険悪な雰囲気になってしまいそうで思わず口を挟むが、何を言っていいのかわからず口籠ってしまう
いつもそうだ
私は…
何も出来ない
「心配しなくても」
ズズッと飲み干した音の後、湯呑みを茶托に置くと、乱歩さんの口角が楽しげに釣り上がった
「君とはすぐ会えるよ」
「――っ!」
顔を合わせないままそう告げ、またお菓子に手を伸ばし一口頬張り始める
いつもの飄々とした様子は初対面の人から見ると莫迦にされたように思えるだろう
案の定それを目の当たりにした潤くんの拳は固く握られ、今度は彼が黙る番になってしまった
「あ、百菓」
乱歩さんがこちらを見て、目元を一層細くさせると少し険しげに眉間に皺を寄せた
思わず唾をゴクリと飲み込む
…今度は何を言い出すの?
「お茶おかわりー」
「え、あ…はい…?」
口の中をモゴモゴとさせる様子からしてお菓子が歯に詰まったみたいで
なんと言うか…
どんな状況でも姿勢を崩さない乱歩さんに“らしい”なんて思ったり
これも才能なのかな…?
と、今はそれどころじゃなくて
潤くんを横目で見遣ると、この不気味過ぎる温度差にいよいよ痺れを切らしたようで、瞳を固く閉じ興奮を逃がすかのように長く息を吐き出した
「……じゃあ百菓ちゃん、また来るから」
私の方は見ず足早にそのまま玄関へ向かい出す
慌ててその背中を追い掛けようとした時、乱歩さんの声が耳に届いた
「今度は僕の勝ちー!」
あぁ…これは事件の幕開けかもしれない