第5章 対極者
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仏間に鈴(リン)の音が響くと、潤くんの後ろ姿の肩越しに線香の煙が立ち昇った
背は真っ直ぐに伸ばしたまま、祖母の遺骨に両手を合わせる
10秒程の時間
じっと動かず頭を下げる背中を、私もじっと窺った
潤くんが姿勢を戻し、仏前用座布団から畳の上へと座り直すと、少し寂しげな笑みをこちらへ向けてくる
「もう半年も経つんだね……
一人で大変でしょ?僕がもっと何か手伝えたらいいんだけど」
「ありがとう。
でも潤くんには家の事や仕事の事でもう沢山してもらってるし」
「いや、あれくらいどうってことないよ。
本当に百菓ちゃんが心配で……
出張中の三ヶ月は来られなかったし、何より僕もおばあさんには可愛がってもらっていたからね」
そうして懐かしむように遺影に視線を移す
にこやかに優しく微笑む祖母の顔
駄菓子屋だった祖母のお店に小さい頃はよく顔を出していた潤くん
彼に限らず、この辺りの子供たちはきっと祖母のお店には一度は通ったことだろう
遺影から顔を戻し、私の後方へと視線だけをずらす
怪訝そうに眉を寄せると私の方へと前屈みになり、マスク越しの更にくぐもった声で問い掛けてきた
「彼は…本当に何者なの?」
視線の先を追って首だけで振り向くと、座卓に肘を付きながらお菓子を頬張る乱歩さんの姿
潤くんを仏間へ案内した後、焼香の間に来客用にと準備したお菓子とお茶に手を付けている
先程の事があって乱歩さんはてっきりお店へと戻ると思っていたから、潤くんの分しか用意していなかったんだけど…
「えっと…駄菓子屋のお客さん、かな…?」
「…そう」
「お茶、すぐに準備するから」
「いや、大丈夫だよ。
一度実家に寄った後、すぐに会社に戻らないといけないんだ」
スーツの裾を上げ腕時計を確認すると、「ところで、」とにこりと目を細くさせた
「土地の権利書は準備できた?」