第5章 対極者
「えっ…?」
その意味深な物言いに、つい声を発したの私、ではなく潤くん
奇麗な二重の瞳を見開き、動きがピタリと止まった
乱歩さんはその反応に満足したようで、更に楽しそうに口の端が上がる
「乱歩さん、あの…」
秘密って何の事ですか?!
そう尋ねようとする前に、唇に人差し指を付け、しぃーっと息を吐くと、顎をくいっと持ち上げる仕草をした
あ、もしかして秘密って…
おばあちゃんのこと?
異能力者だったことを隠していたから?
でも…
乱歩さんの言い方だと別の意味に捉えられてしまいそう
現に潤くんは怪しげに私と乱歩さんを見ているし
何か良い付言はないものかと考えていると、大きな瞳が逸らされ、左右に彷徨った後、ゆっくりと口が開かれた
「それは…どう言う意味、ですか?」
「秘密は秘密ー!」
いつもの飄々とした雰囲気を装いながらも、どこか挑発的な返事をする乱歩さん
それが癪に障ったのか、今度は不快そうに目を細めた潤くんは対話者を見据えた
「江戸川さん、でしたね。あなた見掛けない顔ですよね。
どうしてこの集落へ?」
普段通りの丁寧な口調の中に、静かな怒りが込められていて
私と接する時とは違う空気を感じ、思わず息を呑む
すると少し間を置いて、乱歩さんがはぁと息を吐いた
「あのさぁ君にとって僕は不審者かもしれないけれど、それは僕にも言えることだよ」
そう言うと、頬をちょんちょんと指で押さえる
潤くんのマスクを指しているであろう動作は、当の本人がその意味に気付くと眉間に深く皺が寄った
目の奥から滲み出る不快感と嫌悪感
いつも穏やかな潤くんがこんな表情をするのは初めてで、胸がざわざわと嫌な振動を伝える
何だか…乱歩さんもおかしい……
「乱歩さん、潤くんは、」
「待って」
どうにかこの場を収めたい
そんな思いで次の言葉を発する寸前
掻き消すように強めの声色が響く
潤くんは私のよく知る柔らかな目元を三日月形に変えると、直後真剣な目付きで乱歩さんを直視した
「…僕は酷いアレルギーを持っていてね。常にマスクをしていないといけないんだ。
これが不快に思ったのであれば謝るよ」
そうして頭を下げると、その姿勢のまま暫く静止する
乱歩さんは翠の瞳にその様子を映すと、じっと見つめたままもう何も言わなかった