第5章 対極者
“名前を呼ばれた”
ただそれだけのことなのに
―――『百菓』
確認するように脳内が自動再生して
理解した途端、顔中が一瞬で燃えるように熱くなる
見ていられなくて視線を思い切り逆に反らすと、目の端で潤くんが目をぱちくりさせている様が映った
それが更に羞恥心を増してしまう
「えっと……どちら様?」
「あ、えっと…その……」
赤い顔を誤魔化そうとして言葉がしどろもどろになると、手に外側から圧が緩く掛かる
そう言えばまだ潤くんに手を繋がれたままだった
思わず繋ぎ目に視線を落とした瞬間、突っ立ったままだった乱歩さんが奪い取るように私の手を自分の方へと引き寄せた
「わぁ…っ!」
衝動で体が乱歩さんへとよろめき、顔面から乱歩さんの胸元へとぶつかる
驚いて見上げた先は不機嫌なまま正面を見据えていて、細めた目が何かを見極めているよう
突然現れた来訪者をじぃっとを一通り観察した後、ポツリと声を漏らした
「おもしろくない」
「は?……えっと、百菓ちゃん?」
乱歩さんの一言に直ぐ様反応した潤くんが、困惑した声色で説明を求めてくる
いや、待って
私も混乱してるけど!
恐る恐る体を離すと、繋がれた手もするりと抜けていった
この変な空気をどうにかしたい…
ひと呼吸置いて、機嫌が悪そうな乱歩さんへと向き直った
「あ、あの乱歩さん…こちら雨宮潤くん。小中学校が一緒の同級生なんです」
「雨宮です。あなたは…?」
「…江戸川乱歩」
愛想などまるでない様子でぶっきらぼうに答えると、また眉をひそめてしまう
不貞腐れている様子はなんだか…おもちゃを取られた子供みたいと思ってしまったり
「えっと…恋人、って感じには見えないんだけど」
「乱歩さんは…」
乱歩さんはお客さん?
それとも探偵と依頼人?
返答に困って口籠ると、隣からふっと息が漏れる音が聞こえた
「百菓の秘密を知ってる関係だよ」
ふふん、とでも聞こえそうな得意顔を見せるとニヤリと口角を上げた