第4章 open or close
「…やっぱり知らなかったみたいだね」
笑えない冗談を、と頭の端で考えるけれど
乱歩さんがそんなことを言うはずがないのは百も承知で
彼が言うからにはきっと間違いないんだろう
正直、突然突き付けられた事実に、どう反応していいのかわからない
ただ一番に
おばあちゃんが異能力者だった事実より
私に隠し事があったことの方がショックで
やっぱり私は自分のことだけしか見えていなかった
改めて思い知らされると悔しさと悲しさがふつふつと沸き上がり、抑えようのない負の感情が渦巻いてしまう
ドクドクと耳に付く心臓の音に呼吸が乱されそうだ
俯きがちになる頭上からは、いつもの無遠慮な声が否応なしに降ってきた
「ドアは鍵があっても普通には開けられない。しかもかなり頑丈に作られている。恐らく…異能力者だったことは秘密にしていた。この部屋に全てを閉じ込めて」
その淡々とした物言いが、追い詰められていくような感覚を覚えて
怖くて
どうしようもなく泣きそうになる
「……だから君が知らなくて当然」
……?!
思わず顔を上げると乱歩さんと視線が合う
その表情は心無しか眉尻が下がっていて
真実を告げる名探偵の顔じゃなく、まるで“乱歩さん”が私を案じてくれているように思えてしまう
…例え勘違いでも思い上がりでも、あなたの心一つで私は……
さっきとは違う胸の痛みが襲うと、堪えていたものが一粒頬を伝う
「ありがとう、ございます…」
精一杯それだけを返すと、乱歩さんは再び扉へと視線を移した
おばあちゃんが異能力者
そんな世界とは無縁だった私
一人で秘密を守ってきっと辛かったと思う
だから…
乱歩さんが見た真実を知りたい
無力な私が出来るのは
その苦しみを共有すること
それがせめてもの弔いになればいい
「ごめんください!」
突如、玄関から響き渡る声に大袈裟なほど肩が跳ねた