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UNKNOWN WORLD【文スト/江戸川乱歩】

第4章 open or close


反射的に声のした方へと顔を向けると、乱歩さんもつられてそちらを向く

L字型の廊下の先にいる来訪者の姿はここからでは確認できない

「お客、さん…?」

「こんにちはー。
…あれ、いないのかな」

「…行かないの?」

僕のことは気にしないでと言わんばかりに、声の主を顎で指す

不安げに乱歩さんを見遣ると、私の考えなど解っているかのように今度は口元がニイッと吊り上がった

「この件は僕に預からせて」

そう言うと刺さったままの鍵を抜き、ポケットへと仕舞い込んでしまう

「え、あの…」

「さっきも言ったけど、君はこの部屋に入らない方がいい。おばあさんを守りたいのなら」


本当はすぐにでも教えてもらいたい
乱歩さんの見た物全て

でもきっと

今じゃないんだ

私の思いを理解してくれているのなら

兎に角今は彼を信じるしかない


力強くひとつ頷くと、細い瞳が満足そうに弧を描いた



「はーい、今行きます!」

「あ、待って」

玄関へ向かって大きく返事し一歩踏み出した直後、今度は引き留められる声に思わず振り返った

視界に映る胡桃色の外套がふわりと大きく揺れて

乱歩さんの手が

掌がまた私に触れている


「痕、付いてるから」


ゴシゴシと二度、頬を少し強めに擦り上げられると、手がパッと離れていく


あ、そうだった…
さっき涙が出たから


乱歩さんはすぐに背を向け、対峙した扉に何かを思案している様子


摩擦された頬がチリチリと熱を持つ

正直、ちょっと…痛かった
荒っぽくて一方的で

でも…


そんな動作に彼なりの不器用な優しさが伝わると、自然と口元が緩んだ


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