第4章 open or close
ズッ…ズッ…
廊下に鳴り渡る鈍い音
「開……い、た?!」
重く引き摺るように横へスライドしていく扉は、徐々に壁との隙間を広げていって
乱歩さんはその隙間に手を入れると、力を込めてゆっくりと押し開けていく
まるで開け方を知っていたみたいな動作
いつも私が試していた方法と同じように見えたのに
乱歩さんなら!と思っていたはずが、実際目の前でこうして開扉されると、ただ驚くしかなくて
間の抜けた声が漏れたことにも気付かないくらいだった
「この扉、重すぎ」
人ひとりが通れそうなくらい開けると、乱歩さんが扉から手を放す
ふうと息を吐き、うんざりしたように愚痴を零すも、表情はどこか得意気だ
「あ…ありがとうございます。引き戸、だったんですね…」
ドアノブがあるから、てっきり押すか引くかで開くものだと思っていたのに
「まあ、ただの引き戸じゃないけどね。ちょっとしたコツがいるけど」
こんな一瞬で
私が試行錯誤した時間は一体なんだったんだろう
成功報酬がガトーショコラだなんて
…うん、クレームブリュレも追加しとこう
「ところでこの部屋、照明ないの?」
開放された空間をチラリと覗いてみると、暗闇が広がり、目を凝らしても中の様子を窺い知ることはできない
「あ、これ使ってください」
ここへ来る前に持って来ていた懐中電灯の灯りを付け、乱歩さんへ手渡した
開けた隙間に体を差し入れ、部屋の中を彼方此方と照らし出す
「スイッチ見つけられそうですか?」
「なに、この部屋…か……」
「……?
乱歩さん?」
何かを言いかけたまま返事がなく、動きがピタリと止まった
この位置からだと乱歩さんの体が壁になって何もわからない
何か見えたのかな…?
体とドアの間隙から中を確認しようとした時だった
「―――っ!」
「え…?」
勢いよく部屋から体を引っ込めた瞬間、焦ったように重い扉に手を掛ける
再び鈍い音を響かせながら瞬く間に閉めてしまった
「乱歩、さん…?」
今、開けたばかりなのに
どうして…?
そう尋ねようと乱歩さんを見遣ると、しっかりと見開かれた瞳は動揺の色が浮かんでいて、その表情に思わず息を呑む
「あ、の…ドアは…」
「ここは」
暫く固まったままだった乱歩さんが小さく呟く
「君は開けない方がいい」