第3章 稀代なる名探偵殿
おばあちゃんの話
正直、まだ気持ちの整理がついていないところもあって話題にするだけで辛い
それでも
誰かに…
乱歩さんに、話したいと思った
「中学卒業と同時に小さい頃からの夢だったパティシエになるため、この土地を離れました。学費や生活費、全ておばあちゃんが賄ってくれて。がむしゃらに勉強して、どうにか見習いとしてですが、就職することができたんです。
…その頃から、ずっとここには帰っていませんでした」
早く一人前になりたかった
そうなることがおばあちゃんへの恩返しだと思っていたから
「連絡は偶に電話で話すくらいで。
だから気が付かなかった……
その頃にはすでにおばあちゃんは…末期の肺がんだったんです」
心配させまいと私には何も言わなくて
思えば電話口でも自分の話ばかりだった
もっと早く気付いてあげれば
もっと何かしてあげられることがあったはず
目の奥が熱くなると、自然と俯きがちになる
…泣いちゃ駄目だ
一つ大きく息を吐くと、下を向いたまま震えそうになる声で続けた
「久しぶりに会うおばあちゃんは…やつれて、小さくなって…別人の様でした…。おばあちゃんと過ごしたのは一週間ほどでしたが、最期の数日はもう殆ど意識がなくて。最期に…きっと朦朧としている状態だったと思います。私の手を握って言ったんです……『この場所を守って』って」
自分のことをあまり言わない人だった
いつも私のことばかり優先して
そんなおばあちゃんの最初で最後のお願い事
皺皺の冷たい手が縋るようにこの手を握っている感覚が今でも残っている
「だから仕事を辞めてこの駄菓子屋を引き継ぐことにしました。暫くは何とか頑張ってみたんですけど……
私、この仕事は向いてないんです…」