第3章 稀代なる名探偵殿
呆然と立ち尽くしていると、つい今しがたまで纏っていた雰囲気はどこへやら、いつもの目を細めた乱歩さんがいて
得意気に笑う表情もいつもの様子で、妙に安心したような気持ちから肩の力がすうっと抜けていった
「はぁ……すごいです、乱歩さん。ここまで言い当てるなんて。
本当に探偵さんだったんですね」
「名探偵、だよ」
―――名探偵
今はその言葉がストンと胸に落ちてくる
彼の前では誤魔化しは通用しない
あの瞳は全て暴いてしまうんだ
「乱歩さんの言う通り、お店は辞めて土地毎売るつもりです」
敵わない気持ちから正直に白状すると、今度は乱歩さんが黙って私の話に耳を傾けてくれる
「決して経営が苦しいからではないんです。
確かに駄菓子屋の収入だけでは生活できないので、今は焼き菓子のネット通販をしているんです。趣味の延長程度で、まだ始めたばかりですけど少しずつ注文をもらっていて…その分と合わせればやっと生活ができるくらいです。
……それにおばあちゃんが私のために沢山残してくれたので」
お金の為じゃない
乱歩さんには誤解されたくなくて
これから話す事、どう受け止めてくれるだろう
不安な気持ちと知ってほしい思いと共に恐る恐る口を開いた
「私は小さい頃、両親を事故で亡くしました」
そう告げると、乱歩さんの片眉がピクリと動く
一瞬、驚いた素振りをしたような…
それに心無しか表情が暗く見えるのは、気のせい…?
でも黙ったまま次の言葉を静かに待ってくれている
「両親が亡くなった後、母方の祖母、半年前に亡くなったここのおばあちゃんが私を引き取って育ててくれたんです。厳しくて怖いおばあちゃんでしたけど、その分私をしっかり見ていてくれたんだと思います…」