第2章 落翠
いつも通り、だらけた姿勢で
いつも通り、お菓子を頬張りながら
いつも通り、新聞を読んでいる
会えばてっきり誤魔化したり、照れ隠ししたりするものだと思っていたのに、なんだか拍子抜けする
まさか昨日のアレは夢だったとか?
幻想?妄想?白昼夢?
何度見てもあの乱歩さんだし
なんだか自意識過剰みたいで恥ずかしい
ちょっと…いやかなり意識してしまったのに
「…見過ぎ。何?」
観察していたことがバレたらしく、少し不機嫌な声色の乱歩さん
新聞に視線を落としたまま、抗議の声を上げる
「あ、いえ…」
と、まあこの調子
もしかして突然のことに驚いただけで、何にも思ってないのかもしれない
肩の力が一気に抜けると、急に思考が現実に戻ってくる
…仕事しよう……
駄菓子屋の経営は勿論のこと、今は相続や保険、税金の支払いなどやらないといけないことが盛り沢山
毎日、書類と格闘して少しずつ片付けてはいるけれど、わからないことばかりで
いつも空いた時間に目を通す為に、レジの横に束にして置いてある
でも今日は…
頭使いたくないなぁ
体動かしたい気分
ずっと気になっていた棚の上にある段ボールに視点を移す
見た感じ新しそうだからと放置していたけど、いい機会だし中身を確認してみるか
椅子を使って段ボールを下ろすと意外と軽くて、そのまま床に置き箱を開けてみた
「あ、お菓子だ」
段ボールの中には透明な袋に駄菓子を詰め合わせてリボンでラッピングした物が数十個ある
もしかして、お祭りや行事の時に子供達に配る為に準備してたのかな…
丁寧に作られたそれらは、おばあちゃんが子供達をどれだけ喜ばせようとしていたかが伝わる
折角だし、来た時にでも渡しちゃおうかな
その中の一つを手に取り、詰め合わせた種類を見ていると、そこに表示された数字を見て、つい声が漏れる
「賞味期限…切れてる」