第2章 落翠
「それ捨てるの?」
横から急に声を掛けられて顔を上げると、すぐ隣には乱歩さん
物珍しげに段ボールの中を覗き込んでいる
心臓が飛び出るかと思った
だってこんなに距離が近い
バクバクと余韻を残す鼓動がなんだか憎たらしく思う
一先ず落ち着こうと、バレないように深呼吸をして返事をした
「…そ、そうですね、勿体無いので私が食べます。
賞味期限切れてるって言っても古いもので一週間前なので」
その中の一つを取りリボンを解くと、駄菓子を取り出す
「これ、うちではもう売り切れちゃってるやつだ」
輪っか状のアルミの外装に入った色とりどりのマーブルチョレート
裏側をプチンと破いて一つ取り出し、口の中へと含んだ
「あ、おいしい!懐かしいなー」
もう一つ、と口へ転がしたところで視線を感じてその方向を見ると、形の良い切れ長の瞳とかち合う
乱歩さん、眼が…
じーっと私の口元を見ていたかと思うとポツリと呟いた
「こんなに近いと…食べたくなるんだけど」
「え…あ、ごめんなさいっ!」
段ボールの中から、駄菓子のセットを「はい」と手渡す
……?
喜んで受け取ると思っていたら、その表情は何やら険しく眉間に皺が寄っていて
すごく不満そう?
「あれ…これじゃなかったですか?」
もう一度段ボールから別の種類の駄菓子が詰め合わされたものを取ろうとすると、隣から盛大な溜息が聞こえてきた
「乱歩さん…?」
「あのさぁ、前から思ってたんだけど君って…」
と、何か言いかけると更に眉を顰める
「…やっぱいいや」
そう言い捨てると元の椅子にどかっと座り、新聞を読み始めてしまった
何かマズかったかな…
食べたいと思って渡したんだけど
ポカンとしたまま乱歩さんを見遣ると、いつもの細められた目に拗ねたような表情で
ふと先程の視線の先を思い出す
近いと…食べたくなる……
口元…?
……ん?
……え?!
えええええええ?!?!?!
まさか、そんな筈ない!
いやでも、いや…いやいやいや
脳内問答を繰り返す隣で、また一つ大きな溜息が聞こえた…気がした