第12章 サスケ君
「サスケ君、ありがとう、この時期の雨は、身体に辛いね」
「……そうだな」
焚き火を挟んで前にいるサスケ君はそう言った後、黙って火を見つめた。私も同じように焚き火を眺めた。
じんわりと手足や身体が暖かくなる。穏やかな時間が、なだらかに進む。私の頭の中では、ずっと伝えれない言葉を並べていた。
サスケ君……、みんな、あなたを探しているよ。早く帰ってきて欲しいって、サクラが、ずっと泣いてたよ?ナルトも悔しがっていたよ。
私も、泣いたんだよ?サスケ君は、知らないと思うけどね。
しばらく温まっていれば、落ち着いていた雷が、また大きく鳴り響き、近くに落ちたのが分かった。
「っ!ひっ……!」
身体を萎縮させ、ビクっと肩を揺らす。幾度も落ちるたびに、恐怖心が膨れ上がる。
ぎゅうっと目をつむり、終わるのを待っていれば、サスケ君の、ふ、と笑う声に釣られ、顔を見た。口もとに手を置いて、こちらを眺めている。
「恐がりすぎだろ」
半笑いされた。そりゃ笑うよね。私、16才で、もう子供じゃないのにね。
「まだ、治っていないのか?雷嫌いは」
サスケ君も知ってる雷嫌い。幼少期から、変わらない苦手意識は、そう簡単には克服出来ない。
「うん。どうも音が苦手で…、克服しようと頑張ってるんだけどね」
どうしたら、変われるんだろうね。自分の苦手意識って。
そういえば、サスケ君が里を抜けた日も、雷が鳴り響いて、雨が降っていた。
ナルトが怪我をして帰ってきて、皆辛い気持ちだった。サクラが涙を流して悲しんだ事も知ってる。
私は、サクラがサスケ君を好きだって知ってるよ。だけど私もサスケ君が好きなの。
ちいさな頃から一番の遊び相手だったサスケ君。恋に順番や許可なんかいらない。誰を誰が好きになろうと関係ない。そう思ってずっと私も好きなままだった。
だけど今は、サスケ君は、誰にも届かない遠い場所へ行ってしまった気がするよ。
サクラも、ナルトも、私にも届かない闇の奥深くへ。
「花奏」
サスケ君に呼ばれて、ハッと我に返ったように見上げる。そばに来る気配を感じたからだ。
目の前に立ち、何故か私の横に並ぶようにしゃがんで座る。
「お前、熱ないか……?」
サスケ君が、自然に私の額に手を当てて、熱を確認するよう、自分の額にも手をやった。