第7章 サンジ君(DNH企画)
「私、顔にタルトとか付いちゃってる?」
口もとを触りながら言えば、
サンジ君が吹き出しながら声を出す。
「いや……、あまりに美味そうに食べるな。花奏ちゃんって」
「だって、サンジ君が作った料理って、全部美味しいよね。特に今日のクリームチーズタルトってね、私が一番大好きなデザートなの。甘くてとろけちゃう」
ふふふ、と目を細めて、キャラメルマキアートが入ったカップを口にしながら、サンジ君に明るい声を向けた。
「そりゃ良かった。なァ花奏ちゃん、あんまり無理すっと身体に毒だぜ?目の下にクマが出来てるじゃねェか」
細長い指先が、そっと
頬と泣きぼくろに触れる。
「…っ!!き、昨日ね、夜遅くまで勉強していたの。早く一人前になりたいから」
えへへ…と、不自然にならないように、サンジ君の手から離れるように、少し横に移動して、距離を取った。慣れない仕草につい、私は照れてしまっている。
サンジ君は、私と接する時、いつも素面だ。真顔で言われるから、今も少し、心が跳ねていた。
「無理しちゃいけねェ。花奏ちゃん、身体壊しちゃ元も子もねェよ?」
「そうよね、ありがとう、ご馳走さまでした。今日も美味しかったよ。じゃあ、私、部屋に戻るね」
サンジ君に声をかけて腰を上げた。
「花奏ちゃん」
背中を向けた瞬間、声をかけられる。心臓を少し早めていた。この声色を出す時の意味を知っているからだ。
「……なに?」
「今日。部屋行くから」
「っ!サンジ君…」
「夜行くから」
「……う。うん」
私はやっぱり、意気地なしで卑怯ものだ。
本当に、バカな自分だ。
メリー号の階段を下りて、自分の部屋に向かう。
ドアを閉めて溜め息が漏れた。
この船に乗る前に大失恋をして、自暴自棄になっていた。
ある日、サンジ君に部屋のベッドの上で相談してたら、……いつの間にか、そんな関係になった。
肌を触れ合うだけの関係。サンジ君は、あんなに外じゃ愛を量産するのに、私には全然甘い言葉を言ってくれない。いつも素面だ。するときだって真っ暗。耳にかかる吐く息しか、聞こえてこない。たまに私の名前を呼んでくれるけど……。
お手軽。そんな風に思われてるのかもしれない。いつからか、私は恋に臆病になって、サンジ君に惹かれるのを一生懸命堪えていた。