第6章 我愛羅さま
「花奏、お見合いの件なんだが……」
私は目を閉じて、耳を塞いでいる。聞きたくない。
良かったなんて感想なんか知りたくない。
「花奏……?」
ちらりと見たが、我愛羅さまが明らかに動揺したような顔を浮かべられている。顔を傾け分からないというご様子だ。
仕方なく、目を開け、もう一度見つめたが、景色が揺れるほど、もう抑えきれなかった。
「ご、ごめんな、さい……」
腕や手で涙を拭いても拭いても、止まらない。仕事中なのに涙を流して、我愛羅さまを困らせている。
すぐに止めないと、嫌がられる。それだけは何としても避けたい。それなのに。後から後から滲み出る。
もう何も隠さずに我愛羅さまを見つめた。
「結婚……しないで、ください…。お慕いしています。我愛羅さま。今日気付きました。自分の気持ちに…」
我愛羅さまの目を見つめ、一番言いたかった言葉を喋る。
「我愛羅さまの……
おそばにずっと、いたいんです」
鼻をすすりながら、下を向いた。我愛羅さまがそばに寄ってくるのが足音でわかった。
「花奏、顔をあげろ。泣かなくて良い」
声が聞こえるのに、私は下を向いている。初めて我愛羅さまの言葉を無視している。
「見合いは断る。もう本人には話をしている。だから顔をあげろ」
「…………え?」
涙目で見つめた我愛羅さまは、少し頬が赤く染まっていた。
「お前は早とちりし過ぎだ。ちゃんと話を聞け。気持ちに気付いたと言っただろう?結婚は、やはり誰でも良いと言う訳にはいかない。ずっとそばにいて欲しいと思える人ではないと結婚は出来ないようだ」
「我愛羅さま……じゃあ、結婚はお止めになられるのですね?」
「いや、結婚はする。今から、飯に行こう。そのあとオレの家に来い」
「……え?お相手は?……」
「花奏だ。決まっているだろう。来い」
ええ?ええ?と声を上げるが、我愛羅さまは、私の腕を引っ張り店に向かった。