第6章 我愛羅さま
「これはまた、壮絶にお美しい方でございますね……」
ハハハ…と乾いた笑いを取っているが、私は今にも泣きそうな顔をしている。我愛羅さまと美女が並ぶ想像をしてしまい、最悪な気分になった。
「風貌は気にはしないんだがな。まあ、せっかくの誘いだ。無下には出来ない。オレも良い歳だ。良い機会だと思わないか?」
我愛羅さまは、顔をこちらの方へ向ける。翡翠色(ひすいいろ)の瞳が真っ直ぐに見つめる。
「そ、そうですね。良い機会だと思います。然しながら……、我愛羅さまがそのように乗り気になられるとは思いませんでした。びっくりです」
「最近、たまに人恋しく感じる事があってな。テマリの子供を見ていて家族を持つというのも、良いものだと思っていたのだ」
我愛羅さまは口に手を置き、口元を少し緩めた。
「あー左様ですね。確かにテマリ様の子供様、とっても可愛いですよね。私もこの前お会いしまして、可愛くて悶えました」
私はテマリ様に抱っこされたシカダイを思い出し、微笑んだ。また抱っこさせて欲しいなぁ。でも日に日にずっしりと重くなるシカダイ。この前は、本気で腰を痛めそうになった。
「そうだろ。子供というのは癒しだ。オレもすっかり甘々な叔父さんになった」
風影室の棚に飾られた写真立てを、我愛羅さまは見つめる。シカダイが朗らかに微笑んでいる。
「甥っ子というのは本当に良いものだな」
「そうですね……」
しまった。今の言葉は、見合い話の背中を押してしまう相槌だ。私は引きつり笑いから蹙めた顔をしてしまう。
「花奏」
「は、はい!」
すぐに顔を元に戻す。
「六代目からの手紙には、『形だけでも構わない』とも書いている。オレも周りから口酸っぱく言われる事が多いからな。物は試しだ。引き受ける」
「ま、誠にございますか!?」
「ああ。花奏は日々秘書として忙しいとは思うが、段取りして欲しい。日にちは予定を調べて、伝書鳩を飛ばしてくれ」
「……はい。早急に手配致します」
手帳に書く手が震えている。
まさか、まさか、あの我愛羅さまが。お見合い……。
信じられない。
こんな話が舞い込んでくるなんて、想像すらしていなかった。
頭がだんだんと痛くなってくる。
その日の私は、心ここにあらずでミスを連発し、ほとんど仕事にならなかった。